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 第四話 〜Which!? ラブコメorバトルモノ〜


「えっ、今クリスタルさんいないんですか?」
 ウィルは昨日約束した通り、クリスの家へクリスを迎えに来ていた。
「ええ、そうなの。クリスちゃん、まだ帰ってきてないのよ。ごめんなさいね、ウィルスくん」
 お金持ちという雰囲気を全く感じさせない、庶民じみた町長夫人であるクリスの母、クラリスはそう言って軽くお辞儀する。
「い、いえいえ、そんな謝ってもらうことじゃないですよ」
 ウィルは慌ててお辞儀をやめさせる。
(……早く来すぎたなー。正午過ぎって言ってたしなぁ……半刻前は早すぎたかー)
 何もやることがなく、暇だったので早く迎えに行けばいいか思って来てみたのだが、案の定、早すぎたようだ。
「それで、マイヤーさん。クリスタルさんがどこに行ったか分かりますか?」
「そんなことより。ウィルスくん、ウチのクリスちゃんとはどういう関係なの?」
 クラリスはウィルの質問を無視し、興味津々な眼差しをウィルへと向ける。
「いや……えっと……」
 ウィルは律儀にクラリスに答えようとした……が、なんと言っていいか悩む。
(知り合い……って言うほど他人じゃないし、だからといって友人……になった覚えは、クリスにはないんだろうなぁ……恋人なんてもってのほかだし。クリスなら他人とでも言うだろうけど……)
 考えたが何も思いつかないので、最初の結論にいたった。
「知り合いですけど」
「またまたぁ、恥ずかしがっちゃって。若いわねぇv」
 なにを勘違いしたのか、片手を口元にそえ、流し目でウィルを見るクラリス。……長考していたのが原因だろうか。
「いや、ほんとただの知り合いですって」
「大丈夫よ、誰にも言わないから安心して。それにしても、ついにクリスちゃんにも彼氏が出来たのねぇ〜」
 クラリスは安心してと言ってるものの、ウィルには安心できなかった。なぜならクラリスの目がウワサ好きの主婦という、なんとも怖ろしい目になっていたからだ。
(ヤバイ。非常にヤバイ。自分の娘をウワサのネタにするようなことはしないと思うけど、絶対とは言い切れないぞ、これは。というか、ウワサが流れることより、このことがクリスの耳に入るほうがヤバイ。もしそんなことになったら俺、なぶり殺しにされますよ?)
 クリスの怖ろしさを十分に理解していたウィルは、クラリスの誤解を解こうとする。
「だから本当に何もないんですってば。本っ当にただの知り合いなんですよ。本当に本当の!」
 自分でもなにを言っているか分からなかった。だが、必死な様子は伝わったようだ。
「まあ、そんな必死になって。そんなに隠しておきたいの?」
 ……違う意味でだが。
「どう思われても結構ですけど、絶対にそういうことは誰にも言わないでくださいね! 絶対にですよ! 特にクリスタルさんには何も言わないでください!」
ウィルにとっては生死がかかっているのである。そう簡単にはあきらめる訳にはいかない。
「何で言っちゃいけないの?」
 ウィルの思いもむなしく、クラリスは瞳に興味という光をたずさえ聞いてくるばかり。
(こういうのを墓穴を掘るっていうのかな……)
 内心、自分のおろかさに涙するウィル。しかし、泣いたところでどうしようもないので、開き直る。
 たぶん、これ以上「知り合いです」と連呼しても意味ないだろう。そう思い、ウィルは目を細め、自嘲気味に訳を言う。
「…………そんなことクリスタルさんの耳に入ったら、クリスタルさんに手を下されるからです」
「……本当に知り合いなだけなのね」
 ウィルの言葉を聞くやいな、心底残念そうな顔をして一つため息をする。
「……伝わりましたか?」
 ウィルは疲れの色を見せて問う。
「ええ、伝わったわ」
 さすがクリスの母なだけあって、クリスの性格は良く理解しているらしい。ウィルはホッと一息つき、(クラリスさん、ある意味最強の敵だった)と胸の内でつぶやいた。そして、クリスの居場所を聞こうとしたそのとき、
「でも、変ねぇ〜」
 とクラリスが難しい顔をして言う。
「え、なにが変なんですか?」
「いやね。あの()、ウィルスくんのファンだって知ってる?」
「ええ、そう言ってましたね」
 ウィルは後頭をかきながら少しはにかんで笑う。
「しかもすごくファンなのよ」
「なんかそうらしいですね」
「それでね、私が冗談半分で『もしウィルス=ウォードが近くに住んでたらどうする?』って聞いたのよ」
 ウィルは少しどきりとする。
「そ……それでクリスタルさんはなんて言ったんですか?」
 恥ずかしがり屋なので、こういう自分がからんだ恋愛話は苦手なウィル。卑しいことがある訳でもないのに、ついどもってしまう。
「クリスちゃんはね『ん〜、やっぱりあこがれの人だし、告白しちゃうかな〜』って言って笑ってたわよ」
「そ、そうですか」
 クリスの意外な内面を知り、ウィルは多少どぎまぎし、
(まさかクリスがそんな一面を持ってたとは……全く思わなかったな。でもまあ、今の状態じゃ告白もあったもんじゃないか)
 そしてこんなことを考えてる自分に内心苦笑する。 「あれ? ウィルスくん、顔赤いわよ? もしかして嬉しかったの?」
 なにか見透かされたような気がして、心臓が跳ね上がる。
「い、いや、そんな訳じゃ……」
 弁解しようとしたが、クラリスの意地悪そうな顔を見て、顔が赤い自分がしても無駄だと悟った。
「クリスちゃん、なんだかんだ言ってもやっぱ可愛いからね。嬉しくないわけがないわね」
 クラリスは一人で納得し、うんうんとうなずく。
「それとも、ウィルスくんはクリスちゃんに気があるのかしらねぇ?」
 クラリスはにやりと意地の悪い笑みを浮かべる。
なにかいらぬ勘違いをされたが、言いふらされないならいいかと思い、さっさと話を進めることにする。
「それはそれで! クラリスさん。クリスタルさんはどちらへ?」
 と、いきなりクラリスはハッとした顔になり、それから考え込むように額に手を当てた。そして一、二分たったころ。
「……そう言えば、ウィルスくんはそういう用件で家に来たんだったわね。それにウィルスくん、話の流し方も上手だし」
「いや、まあ。それは置いといてください」
どうやらクラリスは頭の中からは、そのことはきれいさっぱり忘れていたようだ。
 思わずウィルは額に手を当ててしまう。
 そんなウィルに気づかないのか、クラリスが言う。
「クリスちゃんなら道場に行ってるわよ」
「どうじょう?」
 女の子に似つかわしくない単語が出てきて、思わず復唱してしまう。
 しかし、よくよく考えてみれば別におかしなところはなかった。なぜならその女の子はクリスだったからである。ついでに、こんなことを思ったとクリスに言ったらぶっ飛ばされるだろうなとも思った。
「そうよー。ウィルスくんはこの町に来たばかりだから知らないでしょうけど、町の西のほう、ちょっと森が目立ってくるところに『無双(むそう)不羈(ふき)格闘術道場』っていう道場があるのよ」
「……む、むそうふきかくとうじゅつどうじょう? またなんと言うか……」
 世界中どこ探してもこんな名前の道場はないだろうな、とウィルは思った。
「そうそう。なんか、誰よりも強く、そして何にも束縛されない格闘術とか言う意味らしいわよ。覚えにくい名前でしょう? どうせなら『早○女流無差別格闘術』とかにすればいいのにねぇ」
(いや、それもどうかと思いますけど。というか、なんで伏字?)
 つい突っ込むウィル。危うく口に出してしまいそうだったがなんとか抑え、心の中だけで言う。
「まあ、とにかく。町の西のほうにあって、ちょっと森が目立ってくるところにある『無双不羈格闘術道場』ってところですね。分かりました。ありがとうございます」
 ウィルはそう言って律儀にお辞儀をしたら、いきなりクラリスが、
「まあ、ウィルスくん。すごいわね。道場の名前を初めてなのに噛まずに言えるなんて! 私、そんな人久しぶりに見たわ!」
「そ、そんなにすごいことなんですか……?」
(確かに言いにくい名前だけど、そこまで言いにくいかなぁ?)
 と思いつつも、聞き返す。
「ええ、すごいわよ。なんたって道場設立者ですら、噛まないで言うのに三日はかかったて言うぐらいだから」
 その設立者、舌鈍すぎだろ、と思わずウィルはツッコミを入れてしまう。
「……まあ、それは置いときまして。では俺そろそろ行きますんで。ありがとうございました」
「あ、ちょっと待って!」
「……はい?」
 間髪おかず言われる。クラリスのほうを見たら、その姿はもうなかった。あったのは、扉が閉まる音のみ。
 どうやら、クラリスは家に入ったようだ。でも、なんでウィルを待たしたのか?
 その答えは、クラリスが出てくるとたんに分かった。
「ウィルスくん。サインちょうだいv」
 その手には、色紙とペンがあった。

 ◇

「……ここか」
 ウィルの眼前には『無双不羈格闘術道場』と、しっかりとした大きな字で書かれた看板が掛けてある門があった。
 ここがクラリスの言っていた道場である。
 名前ですらいかついのに、なにやらずっしりとした重量感のある空気が張り詰めている。さすが道場といったところか。
 意を決し、ウィルは門をくぐる。門に入っただけなのに、空気が重くなった気がする。ウィルはしきりに(すごい道場だな)と感心した。
「失礼します」
 そして、道場の扉を開けた。開けたとたんに目に入った光景は、こちらに向かってかなりの速さで飛んでくる『人』だった。
「でぇ!?」
 なんとか叫ぶことだけは出来た。しかし、それ以外はなにも出来なかった。無論、飛んでくる人をよけることも。
 飛んできた人とぶつかり、一緒に空を飛ぶ。

 ゴズッ!
 着地はもちろん後頭部からだ。それだけで気絶しそうな痛さなのに、飛んできた人が上に乗り、痛さ倍増。ついでに飛んできた人のひざがみぞおちにめり込む。
 それでもなんとか気絶はしなかったようだ。どうせなら、いっそのこと気絶してくれればこの痛みも和らいだだろうに。と胸のうちでつぶやく。
 いきなり飛んできた名も知らぬ青年男子は気絶してるらしく、いっこうに動かない。ウィルはかなり痛む体を動かし、成年男子をどけ、起き上がる。
 そして、成年男子が飛んできたほう――道場の中を見る。ウィルは、自分からちょうど真っ直ぐの位置にいる、胴着姿をした空色髪の少女を見つけると、ひょいと片手をあげる。
「やあ、クリス」
 クリスは道場の中で、たぶん対戦相手を投げ飛ばしたであろう体勢で固まっていた。クリスはゆっくりと体勢を戻すと、やっとという感じで声を絞り出す。
「な……なんでアンタがここにいるの……?」
 驚き……と言うか、無表情で言うクリスに、ウィルは微笑みながら答える。
「クラリスさんから、ここにクリスがいるって教えてもらったから」
 驚きがやっと薄れたのだろうか。クリスは『なんで?』というような顔をして、ウィルへ歩み寄る。
「なんでウィルが私の家なんかに?」
 昨日、自分が言ったことを忘れているのだろうか。そんなことをクリスが尋ねてくる。
「いや。なんでって、そっちが来てくれって言ったんだろ」
「私、いつそんなことアンタに言った?」
 どうやら本気で忘れてるらしい。親が親なら子も子と言ったところか。
「昨日、言ったじゃないか」
「私、アンタなんかにそんなこと言った覚えはないわよ。って言うか、アンタなんかにそんなこと頼むぐらいだったら、もう一度あの崖から落ちるわよ」
 あの崖というのは、ウィルとクリスが初対面したところだろう(※序章参考)。
「……そこまでしますか? あなたは」
「するわよ」
 即答。
 ウィルは数秒固まる。 (俺って……そんなに嫌われてるのか……?)
 そう思い、内心涙するウィル。女の子にここまで嫌われているのは、かなりのショックだった。
「……ってそんなことより、言ったから。絶対言ったから。もう一度よく思い出してみてよ」
 額に手を当て、クリスは考え込む。
 難しい顔で「う〜ん」とうなる、クリスの様子を見て、ウィルはふと思う。
(……そーいや、クラリスさんも額に手を当てて考え込んでたな。やっぱり、子は親に似るって言うんだなー)
 突然、クリスははっとした顔する。つつーと頬に冷や汗が流れる。
 その状態で十秒ほどたち、クリスが顔を上げる。
「何言ってんのよ、ウィル。私、頼んだに決まってるじゃない。『暴露! 大人気新人小説家、ウィルス=ウォードの私生活!』っていう本を作るために、アンタの家に行くって」
「そんな目的だったのか!? ってか、そんな本売れるのかっ!?……って違う違う。んなところ突っ込んでどーすんだよ、俺。……クリス、さっきと言ってること違うぞ」
 ウィルが思い出せと言っておいて、この言い草はどうかと思うが、なにやらこちらが悪い所為にされていては納得がいかなかった。だからウィルは分かっておりながらも、意地悪な風に言う。
 しかし、いくらかクリスのほうがレベルは上だった。いろんな意味でだが。
 クリスはにこにこ顔でウィルに近づき、胸ぐらをがしっとつかむ。
「……殴られたいの?」
 にこにこ顔のまま、クリスは言う。
「は……はは……なに言ってんだろーなー、俺」
 引きつった笑顔を浮かべ、両手を挙げるウィル。
 それを聞くと、クリスは手を離し、

 ドスッ。

「くはっ……!」
 容赦(ようしゃ)のないひざ蹴りを、ウィルの腹へ叩き込む。
 ウィルの足が1mほど地面から宙に浮く。
 着地はなんとか成功。だが、すぐに腹を抱え、かがむ。
「は……話がちが……」
「私、アンタが非を認めたら蹴らないなんていった覚えはないわよ?」
 理不尽以外の何物でもなかった。しかし、そんなことクリスに言ったってさらなる追撃がくるだけである。
「じゃあ、行こっか。ウィルの家」
 何事もなかったように、クリスは振舞う。
「ああ、そうしようか」
 痛みと理不尽から復活したウィルも、何事もなかったかのように微笑む。
「……アンタ、ホント丈夫ねぇ」
その様子を見て、クリスは半分関心、半分あきれたように言う。
 ウィルがいきなり、世界はこれで破滅だと言わんばかに表情を曇らせる。
 突然の事にクリスはぎょっとする。
「……昔……色々あってね……」
 ネガティブ全開と言うような、どこまでも沈んでいきそうな声色を出すウィル。
「そ……そうなの……アンタもなにかと大変だったのね……」
 なにやら触れてはいけないことだったらしい。しかしそんなことは忘れたかのように、ウィルはいきなり明るい表情で、
「今現在もね」
 とクリスの言葉に付け加えるように言う。
 クリスの眉がぴくっと動く。
「実は私、まだ戦い足りないのよ。……で、それはどういう意味かな?」
 笑みを浮かべながら言うクリスの手は、もちろん握り拳をつくっていた。
 クリスの勘はやはりいい。ウィルの台詞の意図を、分かっているようだ。
(……というかさ、俺が大変な元凶が自分にあるって分かってるなら、少しは悪そうにしないかな? まあ。そこが、さすがクリスって言ったところかな……)
 無駄だと分かっていながらも、クリスの性格の悪さを恨むのは、やはり自分の身がかわいいからだろう。そして自分の身がかわいいからこう言っておく。
「……なんにもです。すいませんでした」
 と。やはり人間、自ら危険になるようなことはしない。
「そう。じゃあ私、着替えてくるついでに、師匠に帰るって行ってくるわ」
 納得したのか、それともただ単にめんどくさいだけなのか、クリスはあっさりとそう言い、道場の中に入る。
 戻ってきたクリスは胴着姿のままだった。
「ちょっと中入ってくれない?」
 それだけ言うと、クリスは再び中へと戻る。
「なんだ、一体?」
 首をかしげつつも、道場に入るウィル。道場に入ると、がっしりとした体格、いかつい顔、そして異様に似合う胴着姿という中年の男がいた。
「君がウィルス=ウォード君だね?」
 胴着姿の男は親しみやすい笑みを浮かべながらウィルに話しかけてきた。
「ええ、そうですけど。なにか御用で?」
「私はベイン。この道場の師範をやらせてもらっている者だ。私と一本手合わせを願えないか?」
「は?」
 あまりに唐突な展開過ぎて、ウィルは話についていけなくなった。
「君が武術をたしなんでいると聞いてね。一度手合わせしたいと思ったのだよ」
 おそらく、クリスにでも聞いたのだろう。しかし、ウィルには全く戦う気が無かった。そもそも、この小説は格闘物ではない。
「いえいえ、たしなんでるって言っても、そんなに強くないですよ。それに、クリスですら手も足も出ないのに、そのクリスの師匠にかなうはずがいないじゃないですか」
「そんなことはないぞ。君はクリスタルの突きを受けても、全然平気だったんだろう? それに、私も手加減をするから大丈夫だ」
 クリスの突きを受けて、平気だったということはないが。……とにかく、ベインはどうしてもウィルと闘いたいらしい。きっと、ここで断っても、また後日試合を申し込んでくるだろう。
「はあ……それなら、一本だけ」
 なにかまだ飲み込めてない、といった感じでウィルは答えた。
「そうか! では、準備は向こうの部屋でしてくれ」
 師匠は嬉しそうに言い、ウィルを更衣室に案内した。
 このときウィルは、 (もしかして、俺が強いってのは、打たれ強いってことか……?)
 と思い、試合を引き受けた自分の末路が怖ろしくなった。
 しかし、もう引くに引けない。
 ただただ、死なないことを祈るばかりだった……

 ◇

 武道場の中心で、二人は胴着姿で対じしていた。周りには、門下生が固唾を飲み、試合を今か今かと心待ちにしている。きっと、ベインが試合をすることはほとんどないのだろう。この試合はベインが闘う、貴重な一戦というわけだ。
 そしてウィルが手にしているのは、棒ではなく『(ほうき)』だった。この道場は格闘技が主流らしく、棒が無かった――家にはあるが、帰っていては時間がかかる――ので、仕方なく掃除用の箒を借りたのである。
 そしてクリスはというと、胴着から私服に着替えて、ほかの門下生と一緒にこの試合を観戦している。しかし、ほかの門下生と違うところは服だけではない。クリスのみ数珠を持っているのだ。
 それを持っている彼女を見たウィルは、 「それは一体どういう意味だよ!」
 と突っ込んだら、
「そのままの意味よ」
 とにこやかに微笑んで返してくれた。
「俺が死ぬとでも言いたいのか……?」
 こう言ったウィルに対して、彼女はさらに嬉しそうに笑う。
「一応願望だけど。師匠がやるなら私の罪にならないし、ねv」
 その一言で、ウィルの中の不安が一気に加速したのは言うまでもない。
(さっきクリスが言った『やるなら』ってのは、漢字表記だと『殺るなら』なんだろうな。……神様神様。マジで殺さないで下さいよ? 本当に頼みますからね?)
 それからウィルに出来るのはただただ祈ることのみ。試合でがんばれば良いのだが、クリスの強さを目のあたりにしては、その不安が頭から片時も離れなかった。
「負けになるのは場外、気絶、君が箒以外の武器を使う、私が武器を使う、降参、でいいか?」
 この降参というのは、一応建前だけなのだろう。そんなことしては試合の意味が無い。
「はい、それで結構です」
「では、始めようか」
 試合開始は、一歩踏み出すだけ。
「お願いします」
 ウィルは一礼し、覚悟を決めたように箒の先をベインに向けて構える。
「お願いします」
 ベインも一礼し、構える。
 クリスがそれと同時に、祈るように両手で数珠を挟む。
 ウィルはそれを目の端で見て、コケそうになる。
 道場の中がしんと静まる。
 両者は微動せず、様子見をしている。リーチのみを見れば、素手のベインより箒を持っているウィルのほうが有利だ。
 先に動いたのはウィルだ。一歩踏み込み、箒の柄の端を持ち、リーチを最大まで伸ばし、足元をすくうように払う。
 ベインはそれを軽くバックステップしてさける。
「たあッ!」
 ウィルはさらに一歩踏み込み、続けて斜め上に()ぐ。   それはベインにいともたやすく片手で防がれた。一瞬で間合いをつめられ、拳が放たれる。
 ウィルは最低限だけ体を反らし、よける。
 間おかず、ベインは上段蹴りを放った。
(さっきのはフェイントかっ!)
 気づいた時にはもう遅かった。よけられるタイミングではない。

 がっ!

 なんとか箒で蹴りを受けきる。
(お……重い! 体の使い方、体重のかけ方が半端じゃなく上手いぞ、この人!)
 このままでは受けきれない。ウィルはそう判断し、箒の方向を変え、受け流す。
 蹴りが受け流されたベインは、ウィルという支えを無くし、倒れそうになる。――が、手を床につけ、跳ねるようにして蹴りを放ってくる。
(なっ! その体勢から出すか!?)
 ウィルは驚くが、ベインは待ってくれない。とっさに前へ飛び、なんとかかわす。そして振り向きつつ箒を振るう。
(まだ相手は体勢を立て直してないはず! いける!)
 ウィルの予想は、相手がたとえ強者でも当たっているだろう。しかし、相手はその強者の上をいく者だった。
 ウィルが振り向いたときには、ベインは体勢を立て直し、正拳突きを放っていた。
(!? よけられなっ……!)
 そう思ったときには、ベインの勢いのついた拳が、ウィルの腹にめり込んでいた。
 めり、と嫌な音を立て、体がくの字に折れ曲がる。
「――かはっ」
 腹の中にある物が、逆流しそうになる。
 箒は手から離れ、目がかっ開く。
 なすすべも無く、ウィルは吹っ飛んだ。


 ベインの正拳突きがウィルの腹へ。そしてウィルが吹き飛ぶ。
「ウィル、ご愁傷様……」
 クリスは、パンと手を合わした。
「あ……」
 クリスはあることに気がついた。ウィルがこちらに向かって飛んできているのだ。
(ここから離れないと……)
 そう思うが、なぜか体が動かない。視界に映る全てが、スローモーションになる。
 門下生が、ゆっくりとこの場から離れる。
 その間、クリスはウィルから目が離せなかった。脳が今の状況を把握するのに手間取っている。
(ウィルが……こっちに……向かって……くる……?)
 突然、クリスの頭にある光景が浮かぶ。あのときの、あの崖での出来事が。


「で、したいことって言うのは……」
 クリスは後ろに色紙とペンを隠し持ったまま、ウィルに近づいた。
「わ……!」
 ウィルがいきなり向こうに倒れそうになる。
 体勢を立て直そうとしたのだろうか。しかし、さらに体勢をを崩し、次はこちらに向かって倒れてくる。

 ――ぽふ。

 次の瞬間、ウィルの顔はクリスの胸に埋まっていた。


 クリスの脳が一気に覚醒する。一番初めに取った行動は、腰のキャリングポーチからトゲ付きナックルを取り出し、右手に装着。そして――
「きゃあぁぁあああああああああッ!」
 ――こちらに向かって飛んでくるウィルに、全身全霊をの力込めて右ストレートを打った。

 ゴギャァァアッ!

『!?』
 道場にいた全員が、今起きたことが理解できなかったようだ。
 吹っ飛んできたウィルを見事に捕らえたクリスの右拳は、飛んできた方向と逆の方向へと、ものすごい速さで吹っ飛ばした。
 ベインの横をウィルが通り過ぎた後に、ヒュッ、という音がウィルを追うようにして過ぎた。
 そのままウィルは道場の壁をぶち破り、道場の裏手へと直接出る。道場の裏は木々が生い茂っている。ばきばきばきっ、と木々をなぎ倒しながらも吹っ飛んでいくウィル。
 クリスの視界からウィルが見えなくなっていた頃には、ウィルはもう吹っ飛んでいかった。木々をなぎ倒すと音が聞こえてこないのが、そう証明している。
 道場の中が、沈黙した。道場の中にいるものの顔にあるのは、驚きであった。
 クリスは力が抜けたかのように、へたりと座り込んだ。ぎゅっと自分を抱きしめているクリスは、目に見えるとこ全てが赤かった。


 このあと、ウィルの様子を見に行ったのは、5分ほど経ってからだった。ウィルは、500mほど、木々をなぎ倒しながら真っ直ぐ吹っ飛んでいた。
 さすがのウィルも、これはかなりのダメージだったらしく、ぐったりと気絶していた。
 この間、クリスは真っ赤になって座り込んだままだった。

 ◇

「う〜ん……」
 体が異様なほど痛い。それはもう、死ぬほど痛い。この痛みは、子供の頃、高さ100mぐらいの崖から落とされたときの痛みより痛い。
「っつつ……なんでこんなに痛いんだ……?」
「おお! 大丈夫か、ウォード君!?」
 野太い男の声がすぐ近くで聞こえる。その声は明らかに喜んでいた。
(この声は……ベインさん……?)
 どうやら、頭は大丈夫のようだ。
ウィルはぎしぎしと鳴る体を無理矢理起こす。それだけで、体に鋭い痛みが走った。
「あたたたたた……」
「大丈夫か、ウォード君!? 体はともかく、頭のほうは大丈夫か!?」
(えーっと……今聞こえたのはきっと、聞き間違い……だよ、な……? クリスならまだしも、ベインさんがそんなこと言うはずはないよなー?)
「……あー、考え事が出来るんで、大丈夫かと」
 聞き間違いだと思うが、一応頭の調子のほうで答えておく。体の方だったら、頭がおかしいととらえられてしまうかも知れないが。
「そうか、良かった」
(ベインさーーん!)
 ウィルは心の中で叫ぶ。どうやら、頭のほうだったらしい。
「あ……あの……なんで頭のほうを聞くんです……?」
「骨が折れているところも特にない。外傷もすり傷以外特に見られない。なら、あと心配するところは頭ぐらいだからな」
 悪意は全くないようだ。ベインはとことん正直な性格らしい。
 ウィルとベインが話してる中、稽古(けいこ)をしている門下生たちのほうから、嫌な話が聞こえてきた。
 「あの髪縛った人、すげーなぁ。クリスタルさんの全力のパンチ受けて怪我ひとつないなんてよ」「そうだよな。俺らじゃ、クリスタルさんの普通に打ったパンチが精一杯なのにな」
(? 俺は一体いつクリスのパンチを受けたんだろ? 確か、ベインさんの突きを受けて、それから……もの凄い衝撃を受けたような……そこからなにがあったんだ? 相当強い衝撃だったから、気絶でもしたのかな)  ベインの突きを受けてから、さっき起きるまでの記憶がすっぽり抜け落ちている。
「ベインさん。俺、いつクリスタルさんに殴られたんですか? 全く記憶がないんですけど」
「ああ……そのことか」
 なぜかベインは気まずそうにする。
「私の突きが君に入っただろう? そして君は吹き飛んだんだ」
 そこまでは、ウィルも記憶がある。そこからが問題だ。
「運悪く、吹き飛んだ方向にクリスタルがいたんだ。クリスタルもよければ良かったんだが、なぜか君に腕を振るったんだ。それも並じゃない威力で。クリスタルがあんな威力で人を殴ったのを見たのは、初めてだ」
 ウィルは隅から隅まで理解した。
(ああ、そうか。そうなんだ。運悪くクリスのほうへ飛んでった俺を、クリスがものすごい威力で殴った。そう言う訳ですか)
 ウィルは微笑みながら、何度もうなずいた。しかしその目は、笑ってはいなかった。
「ど……どうしたんだ、ウォード君?」
 ウィルはそのままの表情で、ベインのほうを向く。今のウィルには、いつものウィルからは想像できないほどの威圧感があった。
 ベインはその威圧感を感じたのだろう。逃げるように、一歩後ろに下がった。
「クリスタルさんはどこにいるのかなって」
「そ……外にいると思うが……」
「そうですか。ありがとうございます」
 表情を少しも変えずにウィルスは言う。痛みは一体どこへやら、すくっと立ち、外へと歩いていく。
 ウィルは表に出る。辺りを見回すが、クリスはいない。ウィルは次に道場の裏手へまわる。
 そこに、クリスはいた。道場の門にもたれるように座っていた。
「やあ、クリス」
 いつもと変わらぬ、おだやかな声色。
「…………あ、ウィル」
 クリスはいつもと違う様子である。
 しかし、今のウィルはそのことに全く気づかない。
「あのさ、クリス。いきなり俺を殴ったんだって? 今もすごく痛いんだ。なんで殴ったりしたのかな?」
 いつもと同じ声色。しかし、ウィルの微笑から放たれる怒りの気配はいっそう強くなった。
 クリスはばつの悪そうに、視線をウィルからはずす。すこしうつむき、
「あれは……その……ごめんなさい」
 と、消え入りそうな声で謝った。
「うん。よし」
 それを聞くと、ウィルは優しく微笑んだ。その笑みからは、先ほどまで感じた怒りは感じない。
 ウィルはただ、クリスが謝ればそれでよかったのだ。
「……で、なんでいきなり殴ったりしたんだ?」
「私も……殴る気は無かったの。……でも」
 なぜか、クリスの顔が赤い。
「でも?」
 ウィルは先をうながした。
「あのとき……二回目の崖でのときのことが、いきなり頭の中に走ったのよ」
「えっと……どういうときのこと?」
「ウィルが……私の……」
 顔がもっと赤くなり、聞こえるか聞こえないかぐらいの声でつぶやくいた。
「む……胸に……」
 ウィルはその言葉でやっと分かった。
 ウィルがクリスの胸に埋まったときのことだ。
 次は、ウィルが謝る番だった。
「その…………ごめん」
「いや、いいのよ。別に謝らなくても。あのとき崖から突き落としたのでチャラにしてるから。それをずっと引っ張ることはしないわよ」
 気まずい沈黙が流れる。
「……でもね」
 クリスが口を開いた。しかし、声色は先ほどまでの弱々しい感じはなかった。むしろ、強気だった。
「アンタがいきなり人の胸に突っ込んでくるから悪いのよ! アンタ、自分がしたこと分かってる!? 女の子の胸に、顔埋めたのよ! 私がどれだけ恥ずかしくてショックだったか知ってるの!?」
 ただ、顔はとても赤かった。それは、怒りからかしゅう恥からか。
「すいませんすいません。ほんとーに悪かったです。俺が悪かったです」
 勢いに押されてか、ウィルはぺこぺこと謝る。情けなさ全開である。
「っはー、っはー、っはー。あー、一気に、たまってたもの、出したから、疲れたー」
 クリスはどさっと寝そべった。そして、静かに目を閉じた。そして、寝てしまったかのように静かな呼吸になった。
 ウィルスは、ついクリスに見とれてしまった。
 その顔は、可愛かった。寝顔というのは、やはり可愛い。もとが可愛いという事もある。
「ねぇウィル」
 目を閉じたまま、クリスが言う。
「なに、クリス?」
「なんで私の顔ずっと見てるの?」
「えっ」
 クリスの指摘に、つい声を出してしまう。少し顔も赤くなる。
「あれ、ほんとに見てたんだ?」
「う゛っ」
 ――引っ掛けられた――
 気づいたときには、遅かった。
 クリスの顔には、意地の悪い笑みがあった。目は閉じたままである。
「私、そんなに可愛かったかなー?」
 ウィルは否定が出来ない。クリスが可愛くて見ていたのだから。
「それとも、私に気があるのかなぁ?」
「いや、あの……」
 少し困り気味のウィル。クリスは笑い声を上げた。声の調子で、ウィルが困っているのが分かったのだろう。
「分かってるって。冗談よ、冗談。ウィルってば、簡単に引っかかるんだから」
 ウィルの顔がさらに赤くなる。なぜかこの光景に、ウィルはデジャブを感じた。
(確か、少し前にこんな風にからかわれたことがあったような……)
 ウィルの思考は、クリスの声で中断された。
「ウィルって、よくからかわれたりするでしょ?」
「……まあ、確かにからかわれるね」
 ウィルのは少し怒った風に言う。
「あはは。ごめんごめん。そんな怒らないでよ」
 こんなに明るく笑うクリスを見たのは、ウィルは初めてだった。出会ってからまだたいして間もないから、当然といえば当然だった。
 しかし、それがウィルには新鮮だった。
「……ねえ、ウィル」
 体を起こし、クリスはウィルに右腕を伸ばした。
「これでなしにしない?」
 握手しよう、という意味だろう。ウィルはクリスと同じように、右手を差し出した。
「ああ、そうしようか」
 ウィルはクリスの手を握った。クリスも、返すようにウィルの手を握る。
 クリスの手は、意外にも小さくて、とてもあんなパンチをしたとは思えなかった。それに、温かく、柔らかい。
 ウィルは、少し不健全なことを考えそうだったので、慌てて思考をストップし、クリスを立たせるため引き上げた。
「わ……っと」
 多少ふらつきながら、クリスはウィルに引きあげられた。
「へぇ。ウィルもやっぱ男なのね」
「なんだい、いきなり」
「だって、私を引き上げたの全然楽そうなんだもん。やっぱり筋肉付いてるのね。私じゃこうはいかないもの」
「まあ、ね。一応それなりには鍛えてるしね。……って、クリス、そんなに力ないの?」
 つい、声が大きくなってしまう。クリスに筋力がないのは意外すぎた。
「なによ、私だって女の子よ。そうぽこぽこ筋肉が付くはずないじゃない。アンタは一体、私をなんだと思ってるのよっ」
「わ、悪い。クリスがあまりにも凄いパンチするから、力強くて当然だと思ってて……」
 クリスは、ぷーっと怒ったように頬を膨らませる。
「パンチが強いのと筋力があるのは……まあ、全く関係ないとは言えないけど、私が強いのは、体の使い方が上手いからなのよ! そこまで筋力はないわよっ!」
「ごめんごめん、俺が悪かったよ。そうだよな、クリスも女の子だもんな」
 ウィルは納得したように、首を何度も縦に振る。
「……仕方ないから、今回は許してあげるわ。今度はどうなっても知らないわよ」
 ウィルは優しく微笑み、優雅に丁寧に礼をした。
「分かりました、お嬢さま。肝に銘じておきます」
「うわっ。なんか逆に頭にくるわよ、それ」
 言って、クリスは笑った。
 ウィルもつられ、クリスと同じように笑った。
 ウィルはひとしきり笑った後、今日の目的を口にした。
「じゃあ、そろそろ行かないと、日が暮れるね」
「……行くって、どこに?」
 もうすでに、目的はどこかへ飛んでっているらしい。ウィルは頭を抱えた。
「いやあの、俺ん家なんだけど……」
 クリスは、はっとしたような顔になり、
「そう言えば、そうだったわねー……」
 明後日の方向に目をやりながら、クリスは答えた。

 ◇

 二人は道場をやっと後にし、ウィルの家へと向かっていた。
 ウィルはそこで、ふと思い出した。
「そーいやさ、道場に穴開いてたけど、あれ一体何だったんだ? しかも森まで続いてたよね? 確か俺が来たときには空いてなかったと思うんだけど」
 一瞬、クリスの足が止まった。なぜか頬に一筋の汗が流れている。
「あ……あれはねー……えっとねー……」
 なにやら歯切れが悪い。だが、なぜ歯切れが悪いのかウィルには全く分からない。
「……アンタが吹っ飛んでって空けた穴よ」
「…………は?」
「だから、私がアンタをぶん殴って、アンタが吹っ飛んでって空けた穴なのよ……」
 そう言うクリスの声はものすごく小さかった。
 ウィルが分からなくて当然、クリスの歯切れが悪かったのも当然であった。
 ウィルはそのとき殴られ気絶しており、クリスはそれを引き起こした当の本人なのだから。
「マジですか……?」
「マジなのよ……」
 ウィルの問いに返ってきた返答は、なんとも信じがたい言葉だった。
(……人が吹っ飛ばされて空く穴なのかぁ? あれは……?)
 それよりも、それ程の威力で殴られ、ぴんぴんとしている自分がなぞだった。そして、改めてクリスの怖ろしさを知った。身にしみて。
(俺は近いうちに、死ぬんじゃないかな……?)
 そう思わずにはいられなかった。
 気まずい空気をまとったまま、二人は歩みを進めた……


 あとがき

コウ:どうも。雲水コウです! これから災難のあとがきは、面白そうなので災難の登場人物との会話形式で進行します。 それにしても、今回はなんか長くなってしまいましたね。
クリス(以下クリ):そんでもって、結局ウィルの家に行ってないしね。なにやってんのよ、三流野郎。
コウ:……いきなりなかなかの台詞を吐きますね、あなたは。
クリ:うるさいわね。それにアンタ、前回の更新からすっごい日数空いてるんだけど。なにしてたのよ?
コウ:おい、自分は一応受験生だったんだぞ。空いてとーぜんだろう。
クリ:その割には誰から見てもイマイチな結果だけど?
コウ:いたたたたたたた……。それはご勘弁を……。
クリ:全く、情けない奴ね。アンタは。ウィルと良い勝負じゃない。ってそうそう。なんで『一応』主人公のウィルより先に私が出てるの?
コウ:だってウィルくんよりキミの方が必然的に盛り上がりそうだし。
クリ:なんかそのまんまの理由ね。でも、こういう場で活躍させてあげないと、主人公の肩書きだけになっちゃわよ? 私は別に良いんだけど。
コク:……まあ、そのうちウィルくんにも活躍させてあげますよ。たぶん。
クリ:たぶんってアンタ……。
コウ:クリスくん。人に絶対はないんだよ。
クリ:……なんか頭に来るわね、その言い方。それはとにかく、私って純情な乙女だったのね。
コウ:……頭打った?

 ゴギャッ!

クリ:(怖ろしいほどの笑顔で)いくらアンタだからって手加減はしないわよ。むしろ、力入れるわよ。
コウ:ぐはっ! すいませんでした……。で、なんでいきなりそんなことを?
クリ:(多少顔を赤くしつつ)だって私、あれを思い出してウィルを吹っ飛ばしたでしょ?
コウ:まあ、「乱暴で気が強くて頼りになる男勝りな人だけど実はナイーブでさびしがり矢でいざと言う時は俺がいないとダメな可愛い奴なんだよな、ふふ」とゆー男性にとって都合の良い女性ですから。あなた様は。ちなみに左記の「」内は、スパイラル〜推理の絆〜6巻、城平京先生のあ原作者とがきからお借りしました。
クリ:……あー、私ってそんな性格だったの?
コウ:そーなる予定です。
クリ:自分の行く末が心配なのはなんでかな……?
コウ:まあ、絶対そうなるとは限らんけどね。もしかしたら、城平先生が言う、「全てにおいて自立したかっこいい女性」になるかもしれませんが。ただ、今のままじゃ男性にとって都合の良い性格へ直行ですが。
クリ:がんばれ。全力でがんばれ、私。それで、多少ラブコメらしくはなった気はするわね。
コウ:なんとかがんばったんだけどねー。むじぃですよ、ラブコメ。
クリ:ただ、私とウィルってのが心の底から気に食わないけど。
コウ:……いや、そこまで言ったらウィルくんかわいそうだよ? あの人、普通よりは顔いいんだし。
クリ:私に比べたら月とスッポンよ。当たり前だけど。
コウ:まあ、無茶苦茶かっこいいわけじゃないからね。それは否定しませんけど……。
クリ:分かれば良いのよ。
コウ:そうですか? では、クリスの気も収まったところで、消えたいと思います。
クリ:今度こそウィルの家へ突撃よ! ウィルの秘密を全て暴いてやるわ! ベッドの下の定番品とかをね!
コウ:……まあ、とにかく。良かったら感想、批評送ってやってください。
クリ:私のファンレターも待ってるわよv
コウ:では、また次回!
クリ:今度も見て頂戴ねv
コウ&クリ:それでは!

 二人はぺこりとお辞儀し、その場から消えた。


 第四話 〜Which!? ラブコメorバトルモノ〜   END

  
 第五話へ続く

2006/3/31 up



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