第三話 〜ありえない! クリスの危機! そして、ヒーロー参上!?〜 「あ〜ったく。すっかり暗くなっちゃったじゃない! あんな奴に付きあうんじゃなかったなぁ、もうっ」 クリスは、はぁぁぁと暗い感情を吐き出すように深いため息をする。 町は深い闇が支配していた。淡い月光と、民家からわずかに漏れた明かりでは、その支配からは逃れなかった。 クリスはその暗闇を怖がるようすもなく、速足で自宅への帰路を急ぐ。 そしているも、クリスの頭の中にはウィルのことが離れなかった。 「……アイツの顔を思い出すと……」 そうつぶやくと、足をとめる。そしてうつむき、黙り込む。 顔がだんだんと、湯で上がったタコのように真赤になる。クリスの頭から勢い良く蒸気が上がる。 このパターンは……一応ラブコメと言う事らしいので王道っぽくヒロインが主人公に恋!? 「あぁぁんの野郎! 当たり前のように頭にくる!」 ……なんて事はなかった。 「さ……サイン……貰おうとしただけなのに……い……いきなりあんなことするなんて……っ」 恥じらいで、顔をさらに赤く染め小声で言う。何かを振り切るように頭を左右に振り、さっきとは打って変わり大声で言う。 「男はやっぱりただのアホで馬鹿で変態よ! ああ腹立つ、殺りたくなってくる! あああああ! ったくもう! 気が収まらないっ!」 言い終えるやいな、渾身の力で正拳突きを繰り出すクリス。 ドスッ! 「ぐはぁッ!」 誰もいないはずの空間に繰り出した正拳突きに、確かな手ごたえと誰かの悲鳴が返ってくる。 「……へ?」 突然の出来事に頭がついて行かず、クリスは間の抜けた声を上げる。 「あああああっ!? あんな恐ろしい正拳突きがみぞおちモロに入った!? 死ぬぞ!!」 誰かが悲鳴に近い声で言う。 気が付くと、クリスの周りを十数人の男が囲んでいた。 「……あんたら誰? ……ハッ!? もしかして、こんなかわいい“美”少女を襲いに来た、クソヤロウ!?」 “美”を強調し、ぶりっ子して言うクリス。『クソヤロウ』と言っている時点で意味はないが。 「ん、まぁそんな所だな」 周りの男達は、下卑た笑いをする。 クリスは自分の世界に入っている間に、どこの町にでもいる、チンピラ風情に囲まれていた。 『何か言ったか!? 作者!!』 クリス&チンピラ全員にめでたく突っ込まれる作者。 さて話を進めてと(作者逃走)。 「……あんた達、私に何か用? もしかして下僕になりたいの? だけど、お断りよ、アンタ達なんか」 「誰が凶暴な『デビル・スマイル』なんかのパシリなるかっ! マゾとかは別だけどな」 そう言って、うんうんとしきりにうなずくチンピラたち。 「悪魔の微笑みですって!? 何者だ私はっ!」 「可愛い顔して、性格は恐ろしいってのが由来だ。何か文句あんのか?」 聞いてもいないのに、胸を張って喋るチンピラ。 「大有りよッ!! 可愛い顔って言うのはよしとして、『性格は恐ろしい』って言うのはどういう事よ!?」 「……お前は自分のこと良い性格だとでも思ってんのか?」 「当たり前よ! 他にこれだけ良い性格娘なんてどこにいるってのよ!?」 「どこにでもいるだろ」 「……お前、B型だろ」 ボソッっと誰かが突っ込み×2を入れる。 クリスは、そこら辺に落ちていたげんこつほどの大きさの石を、突っ込んだ奴×2に全力投球する。 それは、突っ込んだ奴×2の顔面に、異様に鈍い音を立て直撃した。 声を上げる事もできず、地に伏す哀れな突っ込んだ奴×2。 『…………』 気まずい顔で、突っ込んだ奴×2から顔を背けるその他のチンピラ。 「と……とにかくっ! 今までの恨みはさせてもらうぞ!」 「……私、アンタらに何かしたっけ?」 普通こういう場面は理由も無しにかわいい女の子を襲うはず。だが、こちらに何かしらの恨みがあるらしい。しかし、見に覚えのないクリスは首をかしげる。 「トボける気かっ!? 俺が前、財布スろうとした時に殴っただろうが!」 「俺なんか尻触ろうとした時に……」 「俺もなんだよ……」 などと、チンピラたちは自分勝手なことを口々に話し始める。 その内、クリスの額からぷちっという怒りを表す音がする。 「全部あんたらが悪いんでしょうがぁぁぁッ!!」 「知るかっ! とにかくお前が悪ィんだ! かかれ! 野郎共!」 とっくに開き直っているチンピラたちはクリスの言葉には片耳すらかたむけない。 『オオ―ッ!』 威勢の良いかけ声と共に、数人のチンピラがクリスむかって走り出す。 むかって来るチンピラたちを見て、クリスは冷笑を浮かべて、ささやくように言う。 「……フフフフ……私と喧嘩しようなんて、命知らずの奴ら……」 「何をごちゃごちゃ言ってやが……るぅ!?」 殴りかかろうとしてきた奴の腹に右拳をおみまいする。 あまりの激痛にたまらず膝を突く。 その隙を見逃さず、すぐさまクリスはカカト落としを放つ。 見事頭頂に決まり、思い切り顔を地にぶつける。 「でやぁ!!」 横から現れた輩には、みぞおちに肘鉄をプレゼント。 「ひるむなぁ! 人海戦術だっ!」 「そんなことでどうにかなるようなクリスタル様じゃないわよ!」 一気に三人まとめて、回し蹴りをヒットさせる。 「ウフフフフ……」 クリスは恍惚の笑みを浮かべる。目は笑っていないが。 ドカッバキッズコッ!!! 数十人いたはずのチンピラが、あっという間に片手で数えられる人数になってしまった。 チンピラの一人は冷や汗流しつつ、クリスの後ろから、 「……さすがデビル・スマイル……恐ろしく強いな……。しかしな、スキを突くのは簡単だぜ?」 「!?」 一瞬のスキを突かれて、後ろから羽交い絞めにする。 「へへへへへ……つーかまーえたっと」 下卑た笑みを浮かべるウザイ奴。 「くっ……離しなさいよ、このヘンタイ!」 「誰が離すかってんだ! 今までの恨み、とくと味わえ!」 三流悪役の台詞を吐きながら逃がさないよう、さらにきつくしめる。 「アンタたち何する気よ!? ことと次第によっちゃ命を亡くすわよ!」 『おー、そりゃ恐い』と、おどけて言うチンピラたち。 「そりゃあ、1つしかないだろ? 普通はよ?」 げへへへへへと、チンピラは寒気のする笑いをする。 『このサイトは全年齢対象なのよっ!』と言いつつ、羽交い絞めをしている奴をぶっ飛ばそうとしたそのとき、 がしっ クリスの服をつかもうとするチンピラの腕を、誰かが止める。 「きみたち、一体この娘に何をする気だ?」 「ああっ!! ウィル!?」 なんともかっこいい登場をしたのは、主人公(一応よ一応! いつか必ず主人公の座は私が奪取するッ!! byクリス)ウィル君だった。そして、何故か竹箒を持っていた。 「何だお前は? こいつの男か?」 ギロリとウィルをにらみつけるチンピラ。 「いや、知り合いなだけだよ。だけどこんな場面、人として見て見ぬふりなんてできないよ」 さすが真人間。かっこいい台詞を吐きます。 「ヤサ男が! できもしねぇことに首突っ込んでんじゃねぇよ! 怪我するぜぇ? こんな風になァッ!」 叫ぶと同時に、チンピラはウィルに殴りかかる。 ウィルはそれをいとも簡単に、すっと体をそらすだけで避け、持っていた竹箒をそった反動を利用して殴りかかってきた男の後頭部に叩きつける。 男は数歩、よろよろと歩いた後、糸が切れた人形のようにパタリと倒れた。 『な……っ!?』 チンピラだけでなく、クリスまでが 「……まだやるかい?」 まだ数人残っているチンピラたちに竹箒を構え、むき直る。 「な……なんでこんな見るからに弱そうな奴がっ!?」 誰もが思うことを、チンピラは震える声で言う。 「弱そうって言うなぁ! そのイメージ変えるために棒術習ったんだ!」 「でも武器使ってるし。男なら拳で語りなさい。情けないわよ、ウィル」 クリスは会心の一撃を放った! ウィルは心に500のダメージを受けた! 「みんなひどい! 使い捨てキャラだけじゃなくクリスまでっ!」 ウィルはしゃがんで“の”の字を書き始める。 「……今のうちにやるか?」 「そうだな……」 落ち込んでいるウィルを見て、チンピラたちは口々に言う。 「……ハッ!? いかんいかん。また自分の世界入ってたッ!」 「おいおい、アンタホントはそんなキャラなの!?」 「昔からの悪いくせで……いやはやお恥ずかしい」 少しうつむきつつ、頭をぽりぽりとかく。 「お〜い、俺らはかやの外かよっ」 作者にまで忘れられていたチンピラがしびれを切らし、声を上げる。 するとクリスは、チンピラたちをを 「当たり前じゃない。使い捨てキャラの分際でアホな事ほざいてんじゃないわよ」 はき捨てるように言う。 「……っ……確かに使い捨てキャラかもしれないが……役ぐらいは果たして見せるぞぉ! いくぞ! おまえらァッ!!」 「おー……」 まるで棒読みのように言うチンピラ数人。 「うわっ、やる気ゼロ!?」 すぐさまクリスはツッコミを入れる。 「うぉい! 暗いぞお前ら!!」 「……だってよー、俺ら全員で束になって、こいつらに勝てると思うか?」 「…………よ……弱気になるなっ!」 かなりの間を費やして、弱気のチンピラたちに叫ぶ一人。 「やってみなけりゃわかんねぇ!皆の力を合わせてあいつらを倒すぞぉ!」 「おーっ!」 言葉だけだとやる気がありそうだが、実際のところ、チンピラたちの表情は暗かった。 「フフフ……あんたらがこの私に勝てる確率なんて、『ミジンコの爪の 何かヒロインっぽくないセリフを口から滑らすクリス。 「いや、このセリフどっちが悪役かわかんないし。それに、ミジンコに爪の垢あるのか……?」 一応ツッコミを入れるウィル。 「うおおおおー!」 一人のチンピラの怒声で、メインキャラ×2VS使い捨てキャラ数人の戦いが再会されたのだった―― ◇ ――30秒後―― 「フッ、これが使い捨てキャラとメインキャラの力の差よ」 勝ち誇った笑みを浮かべ、クリスは地に伏すチンピラたちを見下す。 「ぐ……さすが……『デビル・スマイル』……まさか味方を盾にするとは……何て非人道的こう」 「黙れ、脇役が」 どげしっ クリスは一言だけ言い放ち、べらべらとしゃべる脇役の頭を踏みつけ、黙らす。 「……さて、と。脇役は片付けたことだし」 クリスは、顔や腹など、いたるところを痛そうに押さえつつうずくまっているウィルの方を向き、 「ウィル、あのさ……」 声をかけ、うつむく。 「ん? 何、クリスタル?」 立ち上がり、ウィルはクリスに歩み寄る。 「よくのこのこと私の前に現れたわねッ!」 クリスは、歩み寄るウィルに――いつの間にか装着したナックルで――みぞおちをめがけて、恐ろしい速さの右ストレートを放つ。 ドスゥッ! 「ぅおッ!?」 そんなストレートを見切れるはずも無く、みぞおちにモロにくらって、紙切れのように吹き飛ぶウィル。 そのまま数十m低空飛行をし、 どっどっどっ…… ボールのように数回地を跳ね、 ずざざざざざざざ…… 10mほどヘッドスライディングで滑った。 『……』 いつの間にか復活していたチンピラたちが、驚愕と同情が入り混じった表情をする。 ウィル以外の人間は、ウィルが死んだと疑わなかった。――が、 「……うぐぉ……けほっけほっ……」 なんとウィルは、咳き込みながらも起き上がる。 『なにぃぃぃぃぃッ!? 起き上がっただとォォォッ!?』 ウィル以外が驚愕の声を張り上げる。 「ぐほ……数秒気絶しちゃったよ……一瞬息も詰まったし……」 『それだけかよッ!!!』 今度はチンピラたちだけが叫ぶ。 「そんな……っ!? 64.867%の力でこれだけしか被害がおよばないなんて……っ!」 『全力じゃないんですかッ!? ってか数字微妙ッ!!』 クリス以外が、恐怖と驚きをふくんだ声を先ほど以上に張り上げる。 「ま、それよりこいつらをどうにかしないと……」 ツッコミを無視して、クリスの喜びの混じった発言に、チ<ンピラたちの顔から、サッ――――っと血の気が引く。 『すいませんでしたぁッ!』 そう言うと、チンピラたちは我先にと全速力で逃げ出した。 「……これで懲りたかな?」 いつの間にかクリスの隣に来ていたウィルがぽつりと言う。 「たぶんね……」 そう言って、クリスは少し憂鬱なため息を漏らす。 「ん? どうかしたの?」 「いや……これでもうストレス発散が出来なくなると思うと……!」 「……そうですか……」 ウィルはげんなりとした表情で力なくつぶやいた。 「ま、新しいサンドバッグが出来たからいいけどね。とっても丈夫な奴v」 「へ〜……そうなんだぁ……」 引きつり笑顔を浮かべるウィル。 「それってどんなの?」 どんなものか気になったのか、ウィルは尋ねる。 「今、私の1番近くにいるけど」 「……へ〜……それって……」 ウィルは言葉を途中で止め、硬直し、 「も……もしかして……俺……?」 恐る恐る口から絞りだす。 「もしかしても糞もなくて、アンタよ、ウィル」 「……」 「何よ。その、人生が終わったような顔は」 「……何にも……」 ウィルは、ただただ泣き続けるのだった…… ◇ 「ありがとね、ウィル。送ってもらって」 「いや、別にかまわないさ」 ウィルは言って、 (あんま必要のない気がするんだけどね) と心の中で付け加える。 クリスを、ウィルが送った理由は、『女の子を夜中に一人で歩かせちゃいけないのよ!』とかなんとか言ったからだ。 真人間のウィル君が(握り拳を作っているクリスの頼みを)断れるわけがなく、送っていくことになったのだった。 「じゃ、僕は帰るよ」 「またね、ウィル」 「ああ、また今度。クリスタル」 ウィルはさよならを言うと、クリスに背を向け、自宅へと帰ろうとする。 「あっ……ウィル」 帰ろうとするウィルを、クリスが呼び止める。 「なんだい?」 「あのさ……私のこと、クリスって呼んでも良いよ」 クリスの意外な発言に驚き、それを表に出さずに答える。できるだけさわやかな笑顔を浮かべて。 「うん。わかった」 「それと……」 「それと?」 「明日、ウィルの家、行っても良い?」 「ああ、良いよ」 「あっ、でも私ウィルの家の場所、知らないな……」 そう言うと、クリスは上目遣いでウィルを見る。ウィルは、クリスの性格を知らなければ落ちているところだった。 内心、危ない危ないとつぶやきつつ、平常を装って答える。 「いいよ、明日迎えに来るよ」 多少どぎまぎしてしまったが。 「来てくれるの? なら、正午過ぎに来てくれる?」 「うん、わかった。じゃ、明日ね、クリス」 ウィルは微笑む。 「うん、明日ね」 クリスもそれに、微笑んで返す。 そして、2人は背を向け、それぞれの家へと向かった。 ◇ クリスは、ウィルが少し遠のくと、ウィルの後姿を見る。 「……何よアイツ……意外と良いとこあるじゃないの」 (それに、ちょっとかっこいいと思っちゃったじゃないのよ……) と声には出さず、心の中だけで言う。 ……はぁ…… クリスは微笑しながら、小さなため息を漏らした。 「許してあげよっかな、あの崖のことは」 クリスは自分で言って、少し赤くなるのだった。 第三話 ありえない! クリスの危機!? そして、ヒーロー参上!? END 序章〜第三話 あとがき いつの間にやら、第三話まで進んでしまったこの小説。ちょっと更新ゆっくり過ぎましたね。すいません。そしてここまで付き合ってくれた方々、どうもありがとうございます。 さて、挨拶は終わってと。 ではこの作品、一段落したんであとがきでも書こっかなと。 一応流れは、クリスとウィルの出会いってとこでしょうか。 そういや、クリスとウィルの詳細が書いてないですね。すっかり忘れてました♪(オイ そのうちどこかで書かせてもらうんで、それでご勘弁を! さて、次からはたぶん、1話で話を終わらせるつもりです。たぶんですよたぶん! これからの流れは、少しでも皆さんを楽しませれるように、少しでもキャラの魅力を生かせるように、そしてウィルがクリスに吹っ飛ばされるように(笑)がんばっていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします! もし良ければ、どんな感想でも送ってくれれば、自分は嬉し泣きするので、遠慮せずに送って下さい! 最後に、七星剣さん、ワープロ打ちどうもありがとうございました! ではでは〜♪ 序章〜第三話 あとがき END 第4話へ続く |