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第一話  灼眼メンバーとのご対面〜♪


 ――夏休み――


「やっと着いたー」
 駅を出てすぐ、沖野が言った。
「ホントに海が見えるねー」
 駅は市街地などより高いところにあるので、町並みの向こうに、太陽の光できらきらと輝く海が見えた。
「ここの眺めも悪くないけど、やっぱ一番いい眺めは向こうに見える……」
 コウは言いながら、北西に見える丘を指す。
「……丘からの眺めだよ」
「へー、そうなのか」
「一度見てみたいな」
「じゃあ、今度ピクニックにでも行こーか」
「いいなー」
 皆で盛り上がっているところに――さっき電車の中で寝ていたのに、まだ眠いのか――半目の三谷が一言。
「今後の話をする前に、コウの親戚の旅館に荷物置いてからにしよーぜ」
「そうだねー。そうしよっか」
「で、どこにあるんだ? 旅館は」
「旅館まで距離あるからバス乗るよー」
「バス停は……そこか」
 櫻井はバス停を見つけ、けげんそうに顔をゆがめる。
「……並んでるな」
「しゃーないよ。だってここ、観光地なんだから。さ、ぼーっとしてないで早く並ぼ」
「ああ」
 コウの声に他の四人は嫌そうな顔と声で答えた。

 ◇

 バスの中はやはりおしくらまんじゅう状態で、まるで拷問にあっているかの様な暑さだった。もちろん、5人とも立っていた。
「ぐおー、きついー。押すなー」
 櫻井が悲鳴を上げる。
「ごめん、さっちゃん。押されてさ」
 花木は片手を口元に添えて謝る。
「気をつけろよー。狭いんだから」
「うん、分かってるよー。ってか沖野、ばれないからって痴漢するなよー」
「誰がするかっ!」
 4人が小さな笑い声を起てる。
 そんな中、コウはこちらを見る一つの視線に気がつく。
「どうかしたんですか?」
 その視線を向ける少年に、コウは声をかける。
「えっ? いや、にぎやかだなと思って」
 と言って、少年は笑顔を浮かべる。
「そうですね。確かににぎやかですねー。親はいませんし、皆羽目を外してるんでしょう。ってか、いつもこんな調子かな?」
「そうなんだ」
 そう言って、2人は笑う。  少年はコウたちより一つほど上、高一といったところか。半そでで、ジーパンという、どこにでもいる普通の少年の服装で
ある。体格も普通。良く言えば優しい、悪く言えば頼りない印象を受ける。
「僕たちも親がいなくてね」
「友達と来てるんですか?」
「うん、そうなんだ」
 少年は視線を隣へとやる。コウはそれを追う。そこには、少年と同じくらいの年齢の男三人、女三人がいた。
「あの人たちですか?」
「そうだよ」
「皆さん、高一ですか?」
「うん。良く分かったね」
「だいたいですよ。そういや、自己紹介がまだでしたね。雲水コウです。受験地獄真っ只中です」
「ははは、受験生なんだ。僕は坂井祐二(さかい ゆうじ)」
「じゃあ、よろしくです。坂井先輩」
「よろしく、コウくん。先輩はやめてよ」
「……じゃあ、坂井さんで」
「下の名前でいいよ、別に」
「いや、同じ名前の友達がいるんで」
 二人は、それから他愛のない話をする。
「……で、海に泳ぎに来たんだ」
「夏ですからねー。ここには海だけじゃなくて、他にもこんなところも良いですよー……」
「……へー、そんなところもあるんだ」
「一度は行っておくと良いですよ。あそこの丘の眺めは……」
「……日ぐらいここにいるんだ」
「自分たちもそれぐらいですかねー。どこに泊まるかもう決めてるんですか?」
「いや、まだだよ。これだけたくさんホテルとかあれば、別に現地でいいかなって」
 そのとき、コウの目がキラリと光る。
「なら、親戚が旅館を経営してんですよ。そこに泊まりません? 友達価格としてお安くしてもらえるよう交渉しますけど」
「本当かい? なら、みんなに話してみるよ」
「毎度ありがとうございま〜す♪」
 と、コウが言った直後、
「何するのよッ!」  女性の怒声が聞こえ、
「いてぇっ!」
 打撃音と沖野にそっくり声色の悲鳴が上がる。
 女性の声が聞こえた方向――坂井の後ろ――を見てみると、背が低く、腰まあであるストレートの髪の気が強そうな少女が、顔を真っ赤にして
しりもちをついている沖野をにらみつけていた。少女の瞳には、明らかに怒りがこもっていた。
 あっけに取られていた沖野。だが状況が飲み込めたらしく、怒りで顔をゆがませて叫ぶ。
「そっちこそ、いきなり何する
「いきなりおしり触るなんて最低よ。この変態ッ!」
 沖野の言葉がをさえぎり、少女は叫ぶ。
「何のことだよ。俺は何もしてないぞ!」
 沖野は言うが、そこに櫻井が起きの野方に手を置く。
「言い訳は見苦しいぞ、沖野。警察行くぞ」
「だからしてないって言ってるだろ! って言うか、弁解しろよ!」
 漫才している彼らはほかっておき、コウは目を細め少女の後ろを見ていた。
 視線を少女へ移す。少女がの視線に気づき、こちらを向く。
「え〜っと、きみさ」
「シャナよ」
 少女は怒気のはらんだ声で言う。
「じゃあ、シャナさん。きみは沖……バンダナのあいつが触るところを見たのかな?」
「見てないわよ。でも、あいつが私のすぐ後ろにいたから」
 それを聞いて、コウは納得したようにうなずく。
「そうですか。だけど、見てもいないのにいきなり殴るのはいくらなんでも良くないですよ。今日はあいつだったから良かったですけど」
「良くないわっ!」
 叫ぶ沖野を無視して続ける。
「他の人だったら色々とめんどうですので」
「そうだよ、シャナ。そりゃ殴りたくなるのも分かるけどさ」
 と、坂井が付け足す。
 コウはそれを見て、ふと思い出す。
(そういえば、さっき坂井くんの友達見た中に、この子いたな。坂井くんの友達だったとは……なら、絶対見逃せないね。ま、元々見逃す気はな
いけどね。にしてもシャナさん、小さいな……背的には高校生に見えないな)
 コウは長々と胸の内でつぶやくと、シャナのすぐ後ろにいる二十歳ぐらいの眼鏡をかけた男に視線を向ける。
「シャナちゃん、本当にこの人だったの?」
「おい、沖野。白状しろぃ」
 シャナをなだめる声や、いまだに言っている櫻井の声などを聞き流し、コウは意味ありげに声を上げた。
「そこの眼鏡の人。すぐ近くでこんな騒ぎが起きてるのに、何で一度もこっちを見ようとしないんです?」
 声をかけられた眼鏡の男は驚いたのか、びくっと体を震わし、恐る恐るといったかんじでこちらを見る。
 男の顔は、とことんなまで情けない顔だった。それは電○男の主人公を彷彿(ほうふつ)させた。
(あ゛ー、眼鏡はかけてるとそーゆー系の人に見えるから嫌なんだよ〜。ぼくはそーゆー系じゃないぞ!)
 ならコンタクトにすれば良いという意見もある。しかし、コウはなんとなくコンタクトが嫌なのである。
「な、なんだよ、お前」
 男の声は、気弱な雰囲気が漂っていた。
 その声を聞いたコウは、さらにげんなりとした。
(いきなりお前呼ばわりですか。それにタメ口だし。年下だからって敬語使わなくていーわけじゃないぞ! こんな奴、絶対彼女いないね)
 内心好き放題言いつつ、コウは丁寧に言い、
「いや、すぐ近くでこんな騒ぎが起こってるのに、まるで『視線を無理矢理逸らしてる』みたいにしてるのは『関係ない人』としてはおかしいか
な〜と思いまして」
 言い終えてニヤリと口だけで笑う。
「なっ! お前、僕を疑ってるのか!? ぼ、僕は何もしてないぞ!」
 驚きと焦りの感情を思い切りあらわにして叫ぶ痴漢疑惑者A。ちなみに痴漢疑惑者@は沖野である。
 普通に返してきた痴漢疑惑者Aに、コウはさらに返す。 「犯罪者って絶対、『何もしてない』『自分じゃない』って言うんですよねぇ」
「うん、確かにそうだね」
「そうねー」
 花木と坂井の友人の一人が、うんうんと頷く。
「……!」
 男は怒りで顔をゆがめ、コウをにらみつける。しかし唐突に冷静さを取り戻し、小馬鹿にしたように口をゆがませる。
「……なら、証拠はあるのかよ」
 もう反論するネタが尽きたか、とコウは思いつつ、痴漢疑惑者Aに返すように笑みを浮かべながら、
「僕の目」
 と答えた。
 痴漢疑惑者Aはそれを鼻で笑う。勝った、とでも思ったのだろう。
「はぁ? そんなので証拠になると思うのか?」
「……と」
 コウは痴漢疑惑者Aを無視してズボンのポケットに手を突っ込み、 「このカメラ」
 コ○ックの使い捨てカメラを取り出す。
 明らかに痴漢疑惑者Aの顔色が変わるのが分かった。
「コ○ックの使い捨てカメラ……普通、富○カラーの使い捨てカメラだろ?」
 そんな痴漢疑惑者Aを差し置いて、花木が突っ込みを入れる。
「どっちでも良いっしょ! 使い捨てカメラには変わりないんだし!」
 律儀に返すコウ。
「……話がずれましたが……。とにかく、このカメラ警察に出しても良いんですか?」
「そ……それに証拠になることが写ってるなんて決まってないだろ!」
(あ〜、以外と頭回るね、あんた)
 内心コウは細く微笑むみ、
「……あなたの右手の甲、ほくろが一つありますよね?」
 痴漢疑惑者Aの顔が引きつる。
「……そ……それが……?」
 無理矢理のどから声を絞り出す。
「これに痴漢してるあんたの手が写ってるって言ってるんですよ」
 強気の口調で、コウは押し切る。
「うそ……」
「嘘かどうかは、警察で確かめてもらってくださいね」
 痴漢疑惑者Aは懇願するようにこちらをみる。
 コウは一つため息をし、 「……武士の情け、です。ここで正直に言ったら警察に出すのだけはやめてあげます」
 安心したのかそれを聞くと、痴漢疑惑者は、多少開き直った風に言った。
「……そうだよ。痴漢したのは僕だよ」
 

◇あとがき◇

 今回は出会いがメインです。
 ……にしても、ほんとんど皆の出番が無かった……人数多すぎだよ〜。
 そして、どうも痴漢者を推理(?)していくのは、何かすっきりしませんね。まあ、これは推理物じゃありませんし^^;
 これはあくまでラブコですので。しかも他人の恋路です。
 誰の恋路かは、灼眼のシャナを知ってる人は分かると思うけど、そうじゃない人はもう少し(次回まで)お待ちしてください。
 今回はこれで。それでは〜♪

 第一話  灼眼メンバーとのご対面〜♪ END
  
 第二話へ

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