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寝息


「なぁ、何であんたここにいるんだ?」
 歩は夕食の準備している中、食卓の椅子に持参の(はし)を持ちながら座っている少女――ひよのに――話しかける。
「何でって、それはここが鳴海さんのお家だからですよ」
 彼女は、いつもの悪気の全くない微笑を浮かべながら言う。
「だから、何でおれの家に居るんだって聞いていんだ」
 箸を持っている彼女と時間を考えれば誰でも分かることを、一応歩は(たず)ねる。
「それはお腹が空いたからです」
 そう言う彼女の表情は先ほどと全く変わっていない。
 歩の予想どおりの返答を答えるひよのに、無駄だと分かりつつも歩は、
「何でわざわざ俺の家にくるんだ、自分の家で食えっ」
「な!? ひどいっ鳴海さん! せっかくこんなかわいい女の子が、ひとりぼっちで寂しそうな男の子の家に来てあげているんですよ!? それなのにこんな仕打ちだなんてっ!!」
 ああっ、と言って腕で顔を覆(おお)い、テーブルに伏すひよの。
 歩は、
 ……別に寂しくはないんだけどな……と言うか、あんたが居るほうがよっぽど恐ろしいんだけどな……
 と思うが、ため息を1つし、
「あー、はいはい。演技が下手だってことは分かったから、皿を用意してくれ……2人分」
 と言う。
 それを聞くと、ひよのは顔を輝かせながら、
「わかりました!」
 皿の用意をし始める。
 歩はそんな彼女の様子も見て、
 ――全く、あんたって人は単純って言うか……
 と思い、料理する手を進める。
 また1つ、ため息をして。

 ◇

「そう言えばあんた、何で姉さんが今日帰ってこないって知ってるんだ?」
 歩は、食後のデザートのプリンを食べながら、先ほどひよのが言った言葉をふと思い出し、聞いてみる。
「え゛?」
 ひよのは、プリンをすくおうとしていた手を止め、頬に冷や汗を流す。
「え……えと……この前言ってませんでしたっけ?」
「言ってない」
 即答。
「う゛っ……」
 ひよのは言葉につまる。
「……まさかあんた、家に盗聴器(とうちょうき)仕掛(しか)けてるってコトはないよな?」
 歩は冗談のつもりで言ってみる。
 ――が。
「……は……はは……は……」
 彼女は否定もせずに目をそらし、引きつり笑いをしているだけだった。
 歩はここで自分の甘さを実感した。
 ……そうだった……あのあんただった……さすがにそこまではしないだろうと思ってたけど……俺が甘かったみたいだな……。
 はあ、ため息を1つし、言う。
「ちゃんと帰りに外していけよ、盗聴器」
「……はい」
 彼女はそれだけ言うと、プリンを口に(ふく)んだ。  歩は、
 ――あとで家の掃除をしよう――
 と心の中でつぶやいた。

 ◇

「ごちそうさまでしたっ!」
 ひよのは、プリンの後にケーキも食べ(太っても知らないぞと歩が言ったら、ひよのにハリセン攻撃を食らった)、お茶でのどを潤した後、手を合わせて元気よく言う。
「おそまつさまでした」
 と歩が返した。
「にしても鳴海さん、どれもこれもおいしかったです。絶品ですよ!」
 彼女は目をうっとりとさせる。
「そりゃどうも」
「なんかそっけないですねー、鳴海さん。」
「この性格が地だ」
 歩は少し声を低くする。
「やっぱり怒ってます」
「怒ってない」
「怒ってます」
「怒ってない」
「怒ってますって」
「怒ってないって言ってるだろう」
「絶対怒ってます!」
「…………」
 さっきまでは少しむきになってしまって言い返していたが、その気分もどうでも良くなり、歩は黙り込む。
 いきなり歩むが黙ってしまい、どうして良いか分からず、ひよのも黙り込んでしまう。
 何かぎすぎすとした空気が、沈黙している二人の間に流れる。
 と、突然。ひよのが欠伸(あくび)をする。 「ふぁ……すいません。お腹がいっぱいになって眠くって……」
「……っぷ」
 歩はいきなり吹きだす。
「なっ……何がおかしいんですか!?」
 顔を真っ赤にして言うひよの。
「悪い悪い。何かあんた見てたらさ、何かいじけてるのがおかしくてな」
「それはどう言う意味ですか……」
「そのままの意味だよ」
 口元に笑みを浮かべつ、歩は言う。
「う〜〜〜。鳴海さんのいじわる」
「悪いな。これが俺の性格だ」
 彼女は、頬をぷぅっと(ふく)らませ、歩いる方向と逆を向く。
 数分経った後、歩は、
 ――言い過ぎたか?――
 と思い、ひよのに、
「悪かったな、からかって」
 と言いい、肩をつかむ。――すると、

 ぽて

 ひよのがいきなり倒れた。
「……?」
「すーすー……」
 彼女はすっかり寝ていたようである。
「……寝るなよ、あんた。家に泊まってくつもりか?」
 苦笑まじりに歩は言う。
「すーすー……」
 しかし返ってくるのは寝息のみ。
 ――にしても、幸せそうに寝てるな――
 歩は、彼女の顔を覗き込む。
「鳴海さん……」

 ビクッ

 いきなり彼女がしゃべったので、驚く歩。
「何だ、寝言か。脅かすなよ……」
 歩は言うと、立ち上がって布団を取りに行く。
 薄い、熊の絵柄の掛け布団を持ってきて、ひよのに掛ける。
「全く、寝るなよ……。俺がどうにかなっても知らないぞ?」
 歩は彼女に言う。
「すー……鳴海さん……食べても良いんですか……?」
 ……一体……どんな夢を見てるんだ。……
 歩は顔をしかめる。
「……ん……美味しいですね……このサンドイッチ……」
 ――いつまで食ってるんだ。あんたは……
 歩はため息をする。
 ひよのは、それからもいくつかの料理の名前をつぶやく。
 歩はそんな彼女の寝顔を見つめている。
 ……こうして見てると、あんたもけっこうかわいいもんだな……
 歩は、普通なら絶対口にしないようなことを思う。
「むにゃ……ありがとうございます……」
「!?」
 いきなりお礼を言われ、歩は思ったことを口に出しているのかと思い、焦る。
「……こんな美味しい料理をご馳走して頂いて……」
 彼女の言葉を聞き、ほっと胸をなでおろす。
 ……何だ……夢のこと(そっち)か……
 焦った自分が異様に恥ずかしくなり、歩はひよのから視線をはずす。
 しかし、やはり彼女の顔を見てしまう。
「普通じゃありえないな、こんこと俺がするなんて」
 そう言っているが、ひよのを見続けている。
「あんただけだぞ?こんなこと俺がするなんて」
 彼女は寝息を立てるのみ。
 歩は続ける。
「ずっと……傍に居てくれよ……?」
「…………」
 ひよのは寝息すら立てていない。
 ふぅ、と歩は息を吐き、横になる。
 少しの間目を開いていたが、突然声もなく苦笑いをすると目を閉じ、眠った。

 ◇

「……もう眠ったみたいですね」
 ひよのは歩の寝息を確認すると上半身を起こす。
「いやぁ……驚きましたよ、鳴海さん。あなたからそんな言葉が聞けるなんて」
 ふふふとひよのは笑う。
 ひよのは歩むが話している間、寝てなどいなかった。
 寝息も寝言も全部演技、寝たふりである。
「ほんとに嬉しいですよ」
 そっと歩の顔を覗き込む。
「私からもお願いです。私の傍に……ずっと……居てくださいね?」
「…………」
 返ってくるのは沈黙。
 ひよのは静かに歩の隣で横になった。


「……わかった……」
 歩は、ひよのの寝息を確認すると、消え入りそうな小さな声で言った。


 あとがき

 ……いきなりですが、すいません。自分で書いてて、何がどうなってるかわからなくなってきました。
 ホントはこんなんになるハズじゃなかったんだけどなぁ……?
 どうしてこんなんになっちゃったんだろう?
 こんなんしか書けない自分が情けない&恥ずかしい……。
 最後に……こんな駄文を最後まで読んでいただいてありがとうございます。

  
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