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第十一章 本当の悪夢


 そんな喜びもつかの間、
「おい、これを見ろ」野田が穴の開いた壁を見つめて言うと、
「あ、野田のおっさんいたのか」と三谷がさり気にささやいた。
「うっ……と、とにかくこれを見ろ」
 野田の見ていた穴を見ると、どうやらこの穴はどこかに続いているらしい。
「この町の下水にこんなところ無いはずだが……」野田はアゴを触りながら疑問に思った。
「よし、行くぞ」三谷が普通に言った。
 みんなは、えーっという顔をしているが三谷は穴をくぐり始めた。
 とにかくみんなはしぶしぶ三谷についていくことにした……
 暗く、しかも狭い……そんな穴をひたすら進み続ける7人。
 進み続けること3時間……いや、5分。
 明かりが見えた。
「おい、明かりが見えるぞ」暗い中誰かが言った。
 たぶん三谷だ。
 こうも暗いとアッキーがまるっきり見えなくなる。
「おーい、アッキー……いるか〜?」櫻井が言うと
「目の前にいるでしょ!!」アッキーが怒った。
 櫻井は一応、すまんと謝っておいた。
 なんだかんだで出口だった。
 よいしょっと三谷が顔を出した。
「なんだこりゃ……すげぇ」三谷が感心の声を出した。
 出たその先は……すっっっごくでかい研究所だった。
 だが研究所には誰一人いなかった。
 野田は三谷の頭を押さえながらキョロキョロしている。
「さわんな、おっさん」
「こんな広さのところは聞いたことが無い」
「わくわくしてきたなぁ花木」
 櫻井と花木は自分達の世界へ入りかけていた。
 とにかく7人は、進むことにした。
 まるで、映画に出てきそうな研究所だ。
「広いから探索する必要があるな」
 冷静に野田が判断すると、すぐさま3チームに分かれた。
 Aチーム、三谷・櫻井
 Bチーム、直樹・コウ
 Cチーム、花木・アッキー+野田だ。
 何かあったらここで合流することにした7人は三手に分かれて走り出した。
「どこまでいくんだよ三谷」
「とにかく走れ! バカ」
「……」
 三谷と櫻井はひたすら走り続けた。
 Bチームの二人は
「こっち行くぞ」と直樹が右の通路を指差して言うが
「いや、こっちだ」コウは左の通路を指差して言う……
 きりがなかったのでCチーム……
「とにかく、私に続け」野田が二人の手を引っ張っていく。
 と、一人の研究員らしき人を発見した。
 どうやら気づかれてはいないようだ。
 野田は二人を残しソ〜っと研究員に近づいた……
 そのとき、――ガシャン――野田を鉄の檻が囲んだ。
「バカだなー。捕まっちゃったよ、野田警部」
 花木が小声でアッキーに話しかけていると、ガシッ……アッキーと花木は何者かに捕まってしまった。
 アッキーと花木が振り向きざまに、口をそろえて叫んだ。
「沖野!?」

 ――そのころAチームとはいうとまだ走っていたのだった。
「み、三谷……もう限界だ……」
 すると三谷はピタッと止まった。
 見たには耳を澄ましている。
 櫻井も耳を澄ましてみると話し声が聞こえてきたのだ。
 どうやら無線機で話をしているらしい。
 若い男の声だ。
「……わかりました。中学生二人と大人一人ですね」
 無論花木とアッキーと野田だと言うことは、二人はすぐに分かった。
「ではその三人を餌に残りの侵入者をおびき出しましょう」
 三谷と櫻井は顔を見合わせた。
「なぁ三谷、花木たち捕まったな」小声で三谷に言ったが見たには聞いていなく
「向こうの扉まで走るぞ」単に命令するのだった。
 向こうの扉と言われても、タダの小部屋みたいだ。
 いや、むしろ倉庫だ。
 櫻井はしぶしぶうなずいた。
 なぜなら櫻井は勉強はできないものの、かなりの戦略家なのだ。
 倉庫の扉は一つ、もし、倉庫に入ったとして敵に見つかったら唯一の逃げ口である扉をふさがれて捕まってしまう、櫻井はそう思ったのだ。
 だが三谷はまだそれに気づいていなかった。
「3,2,1で走るぞ」
 櫻井はコクッとうなずき、三谷はカウントし始めた。
「3……2……1……Go!」合図とともに二人は全力で走り、倉庫に滑り込んだ。
「成功!」三谷が思わず声を出してしまった。
 櫻井はとっさに三谷の口を手で押さえたが、
「んっ今の声は……?」
 どうやら気づかれてしまったらしい。
 若い男は無線機をポケットにしまい、こちらに近づいてきた。
 「ヤバイ、隠れろ」三谷は小声で命令した。
 ……二人は扉の両横にあったコンテナの陰に別々に隠れた。
 心臓がバクバクする。
 若い男は倉庫の真ん中まで行き、引き返そうとしたとき、また無線機が鳴った。
 すかさず若い男は無線機を持った。
『どうかしたのか?』
「いえ、何か声がしたような気がしまして」
『そうか、残りは後4人だ。捕まえろ』
「はい……」
 若い男はまた無線機をポケットにしまった。
 そしてやっと若い男が倉庫を出ようとしたそのとき……へっくち!!……櫻井が  くしゃみをしてしまったのである。
 若い男はパッと振り向き、櫻井が隠れているところに歩き始めた。
(コリャ、ヤベェ〜)櫻井は鼻をすすりながらのんきに思ったのである。
 コツコツと近づいてくる若い男。
 そしてついに
「見つけたぞ! ガキ!」
 櫻井は見つかってしまった。
 若い男が櫻井につかみかかろうとした瞬間、後ろにいた三谷が鉄パイプで若い男の後頭部を思いっきり殴った。
 若い男は頭を押さえながら三谷のほうを向いた。
 若い男の振り向きざまに、三谷は鉄パイプを櫻井に投げてよこした。
 そして今度は櫻井が若い男の後頭部を鉄パイプで殴ったのである。
 若い男はその場でヘナヘナと倒れこみ気を失ってしまった。
 櫻井と見たには親指を立てニッと笑った。
 一安心と思いきや、若い男の無線機が鳴った。
「どうする? 三谷」
「う〜ん、無視するか」
 すると櫻井が無線機を持ち、鼻をつまみしゃべりだした。
「ハイ、もしもし?」
『んっ……さっきと声が違う気がするが……』
「あー、風邪引いちゃいまして〜」
『……まぁいいか、例のアレが完成した。ただちに中央研究室に集まれ』
「ハイ、わかりましたぁ」
 櫻井は通信機を切ると無線機を床に置き、思いっきり踏み潰したのだ。
「これでよしと……」
 櫻井は満足げな顔をしていた。
 見たには櫻井のことはさておき、倉庫を所狭しと歩き回っており、あることに気がついた。
「オイ櫻井、ここ武器庫だ」
 櫻井も周りをキョロキョロ見回した。
 確かにダイナマイトや弾丸がたくさん置いてあった。
 櫻井の目が光った。

 ――忘れかけているBチームはというと…… 「だぁかぁらぁこっちだって!」直樹が怒鳴っている。
「違う!こっちだって!!」コウも怒鳴る。
 どうやらまだどっちの道を行くかもめているようだ。
 そしてその怒鳴り声が研究員に聞こえたらしい。
「誰かいるのか?」
 のしのしと中年のてっぺんハゲの男が歩いてくるのが見えた。
「どうするんだ? 直樹」
「三谷と櫻井ならこういうときどうするかな?」
「最悪の場合殺してるかもね」
「櫻井ならやりかねんな……」
 こんな会話をしている間にもハゲ男は近づいてくる。
「やるぞ、コウ」
「やるって殺すの?」
「気絶させるだけだ」
 二人は顔を見合わせ、コクッとうなずき、ハゲ男の目の前にたちはばかった。
「なんだ? このガキども、やる気か?」
 ハゲ男はかなりけんか腰だ。
「なめんなよ。ハゲ」直樹がけんかを売った。
 それを聞いたハゲ男は切れた。
「ハゲだとコラァ!?」
「や〜い、ハ〜ゲハ〜ゲ」コウもけんかを売った。
 相手は中年オヤジ、二人は勝利を確信した。
「ガキだからって容赦しないぞ」
「かかってこいや」コウがハゲ男を煽っている。
 ハゲ男はフッと笑い、上着を脱いだ。
 ハゲ男の体を見て、二人は唖然としてしまった。
 ハゲ男の上半身は見事に鍛え上げられた、マッチョすぎるぐらいだったのだ。
 勝利の確信は一気に崩れ去った。
 後悔先に立たずとはまさにこのことだ。
「これやばくないか? 直樹」
「ああ……おおいにヤバイ」
 二人は後ずさりして考え込んでいる。
「こういうときはアレしかないな」直樹が言うとコウもうなずいた。
 二人は息をスーと吸うと、180度回転した。
「逃げる!!」
 二人はそう叫び、右の通路へ走った。
「あ! 待て、逃げるな!!」
 ハゲ男も追いかけてきた。
「逃げてるけど、どこまで?」
「とにかく捕まるな!」
 全力で走っていると、他の研究員にまで見つかってしまった。
 しかもその研究員まで追いかけてきたのだ。
「増えたぞ直樹」
「走れ」
 二人は全力で走り続けるも、途中途中で研究員に見つかりまくり、研究員20人  に追いかけられる羽目になった。
 そしてついに……
「しまった。コウ、行き止まりだ」
 直樹とコウは追い詰められた。
「覚悟するんだな、ガキども」
 ハゲ男は、指を鳴らしながら近づいてきた。
「こうなったら突撃だぁ!」直樹が吹っ切れた。
 直樹はハゲ男にタックルしたが、直樹は首を捕まれ持ち上げられた。
 ハゲ男は容赦なく首を締め付けている。
「ぐ、苦じい……」
 直樹は死に掛けていた。
「直樹を放せ!」コウもハゲ男にタックルしたがコウも首をつかまれた。
「ハッハッハッ、おやすみ、クソガキども」
 ハゲ男がそういうと強く二人の首を絞めた。
 二人はうっと言うと静かに目を閉じていった。
 直樹とコウは気を失ってしまった。

 そして再びAチーム。
「くくく……C4まであるぞ〜」
 櫻井は不気味に笑い、近寄りがたいオーラを発している。
「おーい櫻井〜、自分の世界へ入るな〜」
 三谷は遠くから手招きして言ってるが、櫻井は無視……いや、聞こえておらず、  ガサゴソとコンテナの中をまだあさっている。
「おっセメテック爆弾見っけた」
 なんか櫻井が輝いて見えた三谷であった。
 三谷はしばらく櫻井をほっとくことにした。
 数十分、櫻井はダイナマイトをいじっていた。
「櫻井、もう行くぞ」
「おう」
 どうやら櫻井は気が済んだようだ。
 が、足にダイナマイトを巻きつけ、右手に鉄パイプ、左手にはリモート爆弾を2個持っていた。
「櫻井……自爆テロデモする気か?」
「ふざけんな、俺は生き残る」
 ふざけてるのはどっちだ、と思った三谷。
 とにかく武器庫を後にした二人。
「さっき聞いた例のアレって何だろうな」櫻井がつぶやく。
「さぁな、どうせろくなもんなないだろ」
「つーか、とりあえず中央研究室に行ってみるか」
「ろくな武器も無いのにか」
「大丈夫だ。俺にはこのアイアンソード(鉄パイプ)がある!」
 二人はしばらく無言で歩き続けた。
 ひたすら、ひたすら、歩き続けた。
 中央研究室への道は当然分からない。
 しばらくして
「……!」
 三谷が突然立ち止まった。
「どうした? 三谷」
「なんか聞こえる」
 二人は耳を澄ました。
 なにか、ゴゴゴゴと大きな音が壁をつたって近づいてくる。
 これは……水だ!
「下がれ!櫻井!」
 櫻井はうなずき、バックステップをした。
 すると鉄板の壁が破れ、大量の水が流れてきた。
 二人は口をぽっかりあけたまま、しばらく立ち尽くしていた。
 嫌な殺気を感じる。
 この殺気……X−001だ。
 X−001はゼーハーゼーハー行って壁から出てきた。
「まだ生きてたのか、コイツ」
 櫻井が舌打ちしてX−001をにらんでいる。
「化け物にガンとばしてる場合じゃねぇ!逃げるぞ」
 三谷は櫻井の服を引っ張り走り出した。
 X−001は叫び二人を追いかけてきた。
 今までより早い。
「どうする櫻井?追いつかれるぞ」
「まかせにゃさい」
 櫻井は三谷に引っ張られながら床に何かを投げ捨てた。
 リモート爆弾だ。
 しかも、もう一つのリモート爆弾は持ったままだ。
 櫻井は舌を出しながらX−001を挑発している。
 そして、リモート爆弾の上にX−001が来たとき
「ポチッとにゃ」
 櫻井は起爆スイッチを押した。
 大きな音と爆風によってX−001は吹っ飛んだ。
 あたりは煙に包まれた。
 二人は立ち止まり、爆発したほうを見ている。
「やったか?」三谷が言う。
 だが、煙の中から血まみれのX−001が姿を現した。
「しぶといぞあいつ……」
 三谷は少し切れた。
「ガ……ガァ……コ……ロ……ス」
 X−001は今までのダメージのせいでかなり弱ってきているようだ。
 櫻井はため息をつくと天井に残りのリモート爆弾を投げ張りつけた。
「アディオス!」
 そういい櫻井が起爆スイッチを押すと、上から爆発とともに大量のガレキが落ち  てきた。
 それをもろにくらったX−001は、ガレキに埋もれて動かなくなった。
 X−001は死んだのだろうか。
 だが、そんなことを考えている暇は無かった。
 研究所に警報が響き渡った。
「ヤバイ! とにかく走るぞ! 櫻井」
 三谷はまた櫻井の服を引っ張り走り出した。
「くそっ、どこに逃げればいいんだ」
 櫻井を引っ張る三谷が言う。
「中央研究室に行けば?」
 三谷に引っ張られる櫻井がいった。
 どこかわからないが、あてずっぽうに走っていくと、中央研究室はこちら、という表札っぽいものがあった。
 三谷はラッキーと思い、案内どおりに行くことにしたが、櫻井は罠だろこれ、そう思ったが三谷に引っ張られているので抵抗できなかった。
 しばらく走ると、中央研究室の扉が見えた。
 二人はその部屋に滑り込んだ。
 中央研究室と言うだけにいろいろ置いてあるかと思いきや、だだっ広く、壁付近に無数のカプセルがあるだけだった。
 研究室と言うより決闘場のようだった。
 それはさておき、部屋の隅っこで縛られている花木とアッキーと直樹とコウと野田を発見した二人。
「助けに来たぜ花木」
 櫻井がかっこつけて言ったが、花木はヘイヘイって感じだった。
 二人が花木たちに近寄ろうとしたとき、向こうの扉が開いた。
 コツコツと老いぼれた男と鉄パイプで殴った若い男が歩いてきた。
「よくぞここまでこれたものだ」老いぼれた男は偉そうに言った。
「アンタ誰?」櫻井は冷たい表情で話しかけている。
「わしはDr.田中。下の名は太郎」
「うわー、ありきたりだー」
 櫻井は思わず口に出してしまった。
 そんなことは無視の田中太郎はまたぶつぶつと語り始めた。
「わしは世界一の科学者だった。だが第二次世界大戦中にわしの研究所は吹き飛ばされ一つの試作品をアメリカ軍によって奪われた。奪われた試作品の名はX−001……」
「なんでX−001はここにいるんだ? アメリカに奪われたんだろ」
 真面目っぽい三谷が田中太郎の相手をしてくれていた。
 そのとき櫻井は部屋の隅にあるカプセルを何気に見ていて人の話をまったく聞こうとしなかった。
「うばわれたX−001をわしはまた奪い返して日本へ戻ってきたのだ。だがわしにも誤算があった。X−001のたった一つの本当が勝手に目覚めてしまったのだ」
「たった一つの本能?」
「殺すことだ!」
 桜井の手がぴくっとした。
 聞いていないようで聞いていたらしい。
「わしは生物兵器を使ってこの世界をリセットする!!」
 田中太郎は上を向いてガハガハ笑っている。
 三谷が何か言おうとしたとき
「そのへんにしとけ。じじい」
 カプセルを見学していた桜井がコツコツと歩きながら言った。
 櫻井は沖野を殴っているときと同じオーラを発している。
 つまり殺気立っているのだ。
「ハンッ! わしはまだじじいの年じゃないわい。まだピチピチの88だ」
「いや、十分年いっちゃってます」三谷が横から突っ込んだ。
 櫻井はアイアンソード(鉄パイプ)を手に田中太郎へ駆け出した。
「死ね! クソジジイ!!」
 櫻井はアイアンソード(鉄パイプ)を田中太郎の頭めがけて振り下ろした。
 だが櫻井は何かの力で吹っ飛ばされ、ぎりぎりのところで三谷が櫻井を受け止めた。
 田中太郎も櫻井の攻撃でビビッたようだ
「ええい、何だあのガキ。老人虐待か!?」
「うわ〜……自分で自分のこと老人って言っちゃったよ。あの人……」すかさず三谷が突っ込みに入った。ナイス三谷。
「今のはなんだ?」
 三谷にもたれかかっている櫻井が不思議そうな顔をしていった。
 すると田中太郎は自慢げにしゃべりだした。
「これを見ろ」
 田中太郎は上着を脱ぐとベルトの青く四角い謎の装置を見せた。
「これは超電磁力マシーン。これさえあれば銃弾すら受け流すことが出来る」
 つまり攻撃はきかないってことらしい。
 だが櫻井は動じなかった。
「へっそんなもんどうせ単三電池だろ」
「違う! 単四電池じゃ!!」
「どっちも一緒だ!」最後にまた三谷が突っ込みを入れた。
 すると
「おーい、漫才やってないで俺たちを助けろ〜」
 縄で縛られているコウが言った。
 櫻井はめんどくさそうな顔をしてコウに駆け寄ろうとしたそのとき
「させるか!!」
 田中太郎はまた謎の黄色の装置を取り出してスイッチを押した。
 すると櫻井の目の前に黒い陰が現れ櫻井を殴り飛ばした。
 場は静まり返った。
「何しやがる……沖野!!」
 櫻井は切れた。
 目の前に立ちはばかったのは、背中に謎の装置を背負ったほかならぬ沖野燎平であった。
「櫻井……助けてくれ……」沖野が言った。
「何言ってんだお前、敵に寝返ったんだろ」
 当然のごとく冷たい櫻井だが、田中太郎がまたもしゃべりだした。
「ハハハ……今その書きはわしの作った電気信号マシーンによりあやつられているのだ」
「くそっ!! またそのまんまの名前付けやがって!!」怒るところが違う櫻井。
「このマシーンの恐ろしいところは、相手の電気信号をこちらで操作する点だ。他の感覚や感情は本人自身のままだ」
「卑怯だぞ!田中」縛られている花木が叫ぶ。
 花木の叫びは田中太郎には聞こえていなかった。
「ハハハハ……さぁ、攻撃できるものならしてみろ!!」
 ――ボコッ――殴った。
 櫻井は沖野の顔をグーで殴った。
 何のためらいも無く。
「いつつ……何しやがる……デブ!!」  ボコッ
「暴力的だな! このデブ!!」  ボコッ
「もうやめろ……デブ」  ボコッ
「……もうやめてください、櫻井様」
 ボコッ
「いや、最後のは許せよ」三谷がさり気にささやいた。
「なんか気に入らんかった」
 右こぶしが血だらけの櫻井。
「人情ってのが無いのか!? あのガキは」
「そうだ! もっと俺に優しくしろ!!」
 ボコッ
 あまりにもグロテスクだった。
「殴るの飽きたし、そろそろ皆を助けるか」
 櫻井は血のついた手を払い、沖野に大外刈りをくらわせ、花木たちのほうへ行った。
 ロープを解こうとしたとき沖野は立ち上がり、櫻井にとび蹴りをくらわした。
「いってぇな! 何すんだよ沖野」
 櫻井は沖野のほうを見たが、沖野は白目を向いて鼻血をたらして笑っていた。
「お、おい沖野……まるでゾンビだぞ?」
 ゾンビ大好き櫻井君。
 ちなみに、沖野が白目を向いている理由は気絶しているからである。
「フフフ……そんなことではコイツは止まらん」
 田中太郎は沖野を操作して櫻井に殴りかかってきた。
 ドゴッという音とともに沖野の手が櫻井の胸に命中した。
「……全然痛くねぇな」
 そういって櫻井はまたも沖野の顔を2発殴った。
 沖野は少しよろけたがまだ立っていた。
「いくら殴っても無駄だ! そいつが死なない限りな!!」
 田中太郎は沖野を操縦しながら言った。
 沖野はまたもや櫻井に殴りかかる。
「オイ! 沖野! 起きろ!」
 三谷の強烈なつねりで沖野は目を覚ました。
「なにすんだよ三谷!」
 櫻井に殴りかかりながら沖野が言う。
「おおっこりゃおもしれ〜」
 調子に乗って三谷は沖野の腰を蹴り続けた。
「オレに……人権は……ないのか」
「ねーよ、そんなもん」櫻井と見たには口をそろえていった。
 三谷が沖野の腰を蹴り続けた衝撃で、沖野の背中の装置の一部が剥がれ落ちた。
 中の機械が丸見えだ。
 すると三谷が蹴るのをやめ、沖野の背中の装置を観察し始めた。
「なぁ櫻井。これどうにかなるかもしれん」
 そういうと見たには近くに落ちていたアイアンソード(鉄パイプ)を拾い、沖野の背中の装置を叩き始めた。
「ヤバイ! このままでは装置が壊れてしまう」
 田中太郎はターゲットを三谷に切り替えた。
 沖野はそれに反応し、三谷にこぶしを向けた……
 が、そのこぶしは櫻井の手によって止められた。
「お前の相手はオレだろ?」ヤンキー口調だった。
 櫻井は沖野を自分のほうへ向かせ、左手で沖野の襟をつかんだ。
 三谷は沖野の背中に回り作業をし始めた。
「懐かしいな〜沖野と初めてあった場所は柔道場だっけ〜」ボコッ
 昔話をしながら櫻井は沖野を殴った。
「ああ、話しかけたのはオレだな」ボコッ
 沖野も櫻井を殴った。
 これは沖野の意思であろうか。
「あれから3年……いろいろあったな〜」ボコッ
「いろいろというかイタズラばっかだった……」ボコッ
 何をやっているのかまったくわからないコウ・直樹・花木・アッキー・野田。
「なあ、沖野。帰ったら柔道の試合やろうぜ」
「今度は勝つからな」
 櫻井と沖野は笑いながら殴りあった。
 すると三谷が沖野の背中から顔を見せた。
「櫻井、後は背中に強い衝撃を与えるだけだ」
 それを聞いた櫻井は沖野から手を放した。
「やっと終わったか。こんなヤツと昔話してもつまらんわ!」
 本性をみせた櫻井。
「へっ……?」
 沖野はまったく意味が分からなかったらしい。
 が、櫻井はそんなことお構い無しだ。
「テメェはここで朽ち果てろ!!」
 ドカンッ――沖野の顔面を思いっきり殴った。
 突然の攻撃のもかかわらず沖野はよろけただけだ。
「めちゃくちゃいてぇ……」
 櫻井は沖野に隙を与えることなく、左手で沖野の左袖、右手で沖野の右襟をつかんだ。
 この構えは……柔道だ。
「トドメェ!!」
 櫻井は沖野に今までに無い、すばらしい背負い投げをかけた。
 沖野は受身も取れず、もろに背中から地面に落ちた。
 その衝撃で背中の装置はスクラップになった。
 しばらく間が開き、沖野が立ち上がった。
「自由に……動けるぞ」自分の掌を見ながら言った。
「作戦成功だな、櫻井」
「おう、痛かったけどな」
 親指を立てる二人。
 すると
「櫻井……テメェ……」
 沖野がのそのそと櫻井に向かってきた。
「あ〜ん?まだコイツ直ってねぇんじゃね〜?」
 そういいながら櫻井は沖野をどかどか蹴り続けた。
「くそ……わしのマシーンが……」
 田中太郎は沖野のコントローラーを持ち、立ちすくんでいる。
「もうあきらめな、じじい」
 三谷がアイアンソード(鉄パイプ)を田中太郎に向けた。
「ええい!! 沖野よ、こやつらを殺せ!!」
 田中太郎はやぶれかぶれに、コントローラーのスイッチを押した。
 そのとき、コントローラーは黒煙を出しながら爆発して、田中太郎の両手を跡形も無く吹き飛ばした。
「手が……わしの手がぁ!!」
 田中太郎の手から血が噴き出している。
 事態を重く見た若い男は、田中太郎とともに隣の部屋へ逃げていった。
「逃がさんぞ、じじい!」
 櫻井がかっこつけ走り出そうとしたとき三谷に引き止められた。
「その前に皆を助けるんだろうが」
「わすれとったわ!」
 縛られている皆は、櫻井を冷たい目線で見ている。
 三谷と沖野は皆のロープを解いた。
「これからどうする?」コウが口を開いた。
「私は一回外へ出て、応援を呼んでくる」
 野田が言うと出口へ走り出した。
「今度はまともな警官連れて来いよ〜」三谷が嫌味っぽく言った。
「俺らはどうすんだよ?」櫻井が直樹に聞く。
「もうここまできちまったんだから……田中太郎を止めるぞ!!」
 なんかリーダーみたいな口調の直樹。
 だが、皆は直樹にしたがった。
「ここで俺たちがやらなきゃ誰がやる!」花木が叫んだ。
 皆が気合を入れたとき
「ジバクソウチサドウ、アト30フンデバクハツシマス」
 嫌なアナウンスが流れた。
「帰ろうよ皆……」アッキーが半ベソをかきはじめた。
「考えている暇は無い。前へ進むぞ」
 アッキーの言葉は無視の櫻井がいった。
 田中太郎の逃げた扉を開けるとそこは巨大なごみ処理場だった。
 部屋の三分の一は硫酸の水槽だ。
 この硫酸でごみを溶かすのだ。
 と、部屋の置くに田中太郎と若い男の姿が見えた。
「ここまでだ、田中!」なぜかアッキーが言った。
 田中太郎は重い口を開いた。
「あと30分でここは爆発する……冥土の土産にわしの人生をかけた研究の成果を見せてやろう……」
 そういうと若い男が赤い薬を田中太郎に飲ませた。
 場は静まり返った。
 しばらくして、田中太郎は苦しみ始めた。
 のどを押さえながらもがきまわった。
 すると田中太郎は足を滑らせ硫酸の中へ落ちていった。
「ハカセー!!」若い男が叫んだ。
 すると部屋の天井から大量のガレキが落ちてきた。
 最後に巨大な黒いものがドスンと落ちてきた。
 倒れているもののX−001だ。
 残るは若い男だけだ。
「覚悟しな、にいちゃん」花木が言った。
 その声に反応したかのようにX−001は叫びながら起き上がった。
 花木は櫻井の後ろにササッと隠れた。
「くそ、この部屋じゃなす術が無い……」櫻井がキョロキョロしながら言った。
 もうだめかと思った瞬間、硫酸の中から肌色の触手が出現し、X−001を硫酸の中に引きずり込んだ。
「まだ化け物がいるのか!?」花木が櫻井の陰から叫んだ。
 若い男は硫酸の水槽を覗き込んだ。
「ハカセの人生を費やしたあの薬は失敗したのか……?」
 若い男はその場で座り込んだ。
「行けガキども。もう何もかも終わりだ」
 そう言った瞬間、硫酸の中からまた肌色の触手が出現し、若い男の首に巻きつい  た。
「やめろっ! うわっ……ぐぁぁぁ!!」ボキッ……
 触手は若い男の首をへし折り、硫酸の中に引きずり込んだ。
「やばいんじゃないか、コレ」沖野が言った。
 すると硫酸の水槽からX−001が這い上がってきた。
 背中は半分溶け、背骨がむき出しになっている。
「しぶとすぎるぞ、アイツ」
 皆が後ずさりするなか、櫻井が言う。
 その直後、硫酸の中から巨大な肌色のゲル状のものがX−001の後ろに這い上がってきた。
 するとゲルは触手を伸ばし、X−001を縛り上げ、体内に吸収していった。
 すると驚くことにゲルはしゃべりだした。
「ガ……キども……わしの研究は……失敗だ……」
「……田中太郎か?」直樹が言う。
「あと20分でここは爆発する……逃げるなら今のうちだ……」
「……皆逃げるぞ。こいつはもう悪人じゃないらしい」
 直樹が言うと、出口へ向かおうとした。
 が、ドゴンッ……田中太郎が触手で扉を破壊して通れなくしてしまった。
「何しやがる!? じじい!」櫻井が振り向きざまに切れる。
「わしじゃ……ない……わしの中のX−001が……うわぁぁぁ!!!」
 しばらく沈黙し、ゲルがまたしゃべった。
「……コロス……」
「どうやら田中はX−001に支配されたようだな」三谷が言う。
 X−001がじわじわ迫ってくる。
 扉はふさがれて、出ることが出来ない。
「花木! どうにかしろ!!」
 沖野が花木に怒鳴るが、花木はシカトしていた。
「どうすればいいんだ……」
 三谷が悩んでいると、櫻井が肝心なことを思い出した。
「オレ、足にダイナマイトつけてたわ」
 そういうと櫻井はダイナマイトを扉に置いた。
「で、置いたはいいが火はあるのか?」
 沖野が聞くと櫻井はアッという顔をした。
 すると三谷がアイアンソード(鉄パイプ)で地面をかんかん叩き始めた。
「何してんの、三谷?」アッキーが覗き込んだ。
 そんなアッキーを無視して地面を叩き続け、火花が出てきた。
 櫻井はとっさにダイナマイトの導火線を火花に近づけた。
 火がついた。
 櫻井は素早くそれを扉に置き、離れた。
 扉は勢い良く吹っ飛び、大穴があいた。
 皆は中央研究室の出口まで走った。
「くそったれ! あかねぇぞ!」
 櫻井が扉を蹴り続けるがびくともしない。
 そのとき、扉の反対側から声が聞こえた。
「君達、できるだけ扉から離れるんだ」野田だ。
 みんなは扉から離れた。
「離れたっすよ〜」と奥からコウが言った。
「ではいくぞ」
 野田が言うとそういうと扉が爆発した。
 煙が立ち込める中、人が数人ササッと入ってきた、マシンガンを持って。
 野田がは日本の特殊部隊<サット>を呼んだのだ。
 迫り来るX−001にマシンガンを構える。
 野田を合図に隊員たちがいっせいに引き金を引いた。
 銃声は研究室に響き渡った。
 しばらくして銃声がやんだ。
 全員弾切れのようだ。
 隊員たちはポケットからマガジンを取り出し、マシンガンに装填した。
 櫻井たちはX−001に目をやるとX−001は血だらけで倒れていた。
 隊員たちがマシンガンを構えながら、恐る恐るX−001に近づいた。
「野田警部。X−001の死亡を確認」一人の隊員が大声で言った。
「よくやった、引き上げるぞ」
「了解……うわぁぁぁ!」
 隊員たちが油断した瞬間、X−001は隊員の一人を爪で切り裂いた。
 X−001は立ち上がり、残りの隊員全員をゲルで吸収してしまった。
「田中太郎を支配したことで、新しい能力を身につけたか……」直樹がつぶやいた。
「俺たちにも勝ち目は無いのか……」
 沖野が弱音を吐くと田中太郎がしゃべりだした。
「レ、レール……キャノンを使え……そうすれば跡形も無く吹き飛ぶ……」
 どうやらこの研究所にはレールキャノンというものがあるらしい。
 それを使えばX−001を葬ることが出来る。
 田中太郎は薄れていく意識の中、レールキャノンの使い方を教えてくれた。
「レールキャノンは……中央研究室を出て、右に行けば分かる……」
「田中太郎……感謝する」皆はおじぎをした。
「は、早く行け……意識が……もうな……い……ガァ」
 X−001は再び動き出した。
「よし、早く行こう」
 アッキーが背を向けると、X−001は触手を伸ばしアッキーめがけて伸びていった。
「危ない!!」
 ……グサッ……野田はアッキーをかばって腹に触手が刺さった。
 大量の血が流れ始めた。
「私が足止めする……早く行け……」
「野田警部……」
 アッキーが涙を流した。
「……はやく行くんだ!!」
「アッキー、悲しんでる暇は無い。俺たちはここでアイツを葬るんだ」
 櫻井がアッキーを引っ張った。
「レールキャノンのところまで走るぞ!」
 直樹が命令を出し、野田を残して中央研究所から出て行った。
「世話の焼ける子供達だ……ぜ……」
 そういって野田は静かに息を引き取った。

2006/6/25 up

 第十二章へ



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